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沐 浴

 今にもまどろみはじめそうなわずかに陶酔の表情を浮かべた少女の白い身体をルッチは無言のまま瞳に映していた。彼の持つ審美眼から見れば細い身体にはまだまだ硬さが残り、身体を重ねている最中にさえふと性別を忘れる時があった。溢れそうになる声を、身体の動きを頑なに我慢して己に許そうとしない姿は彼には不可思議であり少々滑稽で、それを崩して溶け出した少女の身体を頂に押し上げる時、その身体のすべてを熟視する顔には興味の色が通り過ぎる。何かを見届けるように視線を向けていたルッチは、ふと白い肌に残る別の色に目を留めた。
 脇腹にあるその模様に指先を触れると閉じかかっていた少女の瞼が反応するように持ち上がった。赤く浮き上がった跡。恐らくその形は彼の指と一致する。気がつかないうちに押していた刻印。
「感じるか?」
 再びそこに触れたルッチの顔を見て少女は困ったように微笑んだ。恐らく痛みを感じたのだろう。
 ルッチは両腕で細い身体を抱き上げると浴室まで歩き、栓をした浴槽の中に少女を下ろした。
「ルッチ?」
 不思議そうに見上げた顔と銀色に光る髪の上からシャワーの湯を浴びせる。キューブの形をした石鹸を放り込むと見る見るうちに泡立ちはじめる。ためつすがめつした後に黄色のスポンジを手に取ったルッチは浴槽の縁を跨いで中に腰を下ろした。
「…ルッチ?」
「向こうを向いていろ、リリア
 すでに膝の高さまで溜まった泡立つ湯の中、ルッチはリリアの身体を捉えてクルリと回すと足の間に引き寄せた。華奢な首の後ろにスポンジをあてると、そのザラリとした感触に驚いたリリアの身体が震えた。けれど、首をこすられ次に腕を片方ずつ伸ばされて肩から指先までを強く撫ぜられてもリリアがその痛みを訴えることはなかった。それはルッチが予想した通りだった。
「いつでも使えるように磨いておけ」
 驚いたように振り向いたリリアの頭を押しやって戻しながらルッチはスポンジで背中から脇腹、胸と腹を洗っていく。スポンジが通った後の肌にはヒリヒリとした感触が残る。リリアは再び身体を震わせながらじっと耐えた。
 『使う』というのはどういう意味なのだろう。頭の中に浮かんだ疑問が肌を焼く痛さを薄れさせる。ルッチがリリアを抱くということなのか、それともルッチの頭の中にはリリアの他の使い道が考えられてあるのか。
 胸の頂を容赦なくこすられた痛みに思わずまた視線を送ると今度はルッチはそれを受け止めた。
「速い反応だな」
 向かい合った状態で反応を見られるのはひどく恥ずかしかった。それに気がついたリリアが自分からルッチに背を向けると低い笑いが背後から聞こえた。
 そのまま下腹から尻に回って足の指先まで。こすられているうちに全身が温まって気だるくなってきたリリアは我慢できなくなって目を閉じた。あたたかな湯気に包まれていると、気分がどこか夢心地になっていく。元々、ベッドの中で半分まどろんでいたのだから。
「ん…」
 柔らかな声とともにふわりと倒れてきた背中を胸で受け止めたルッチは、偶然リリアの頭に触れた自分の唇に苦笑いしながらついでのようにその唇を肩に移した。
「…これは何か間違ってるな…互いに」
 呟いたルッチは一瞬動きを止めた後、寝息をたてはじめた頭に白い泡を塗りつけた。


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