目を開けるとやたらまぶしい天井が見えた。
真っ白な天井に清潔な寝具の匂い。
でも、病院じゃない。
わかる。
隣りに人の体温があるから。
・・・・なんでこいつの部屋には生活感ってやつが全然ないんだ。
普通あるだろ、グシャグシャの服とか脱ぎ飛ばした靴下とかよ。
・・・山積の請求書とか・・・・。
なんだコイツ。男の癖に睫毛長げぇ。・・・・鼻も長げぇけど。
「・・・・・・じゃろ」
突然カクが目を開けたんで、俺たちはまともに目を合わせた。
「借金取りに追われて街中逃げ回って、やっとまいた祝いに酒場でドンチャン騒ぎやらかしてまた借金増やしたじゃろ。・・・・・お前、そっからいつ抜けるん じゃ」
カクの目は真っ直ぐに俺を見る。真っ直ぐなくせに何を考えてんだかまったくわからねぇ変な目だ。変だけど、なんだか見てると・・・・・・。
「いいだろ、うまく逃げたんだしよ。俺の部屋で待ち伏せしてるかもしれねぇけど、俺、どうせしばらくここにいるしよ」
「おまえのぅ・・・・・」
カクが深く息を吐いた。なんだよ、わざとらしい野郎だ。
「どうせお前、女もいないし、別に俺、邪魔じゃねぇだろ。あとで差し入れ買ってくるしよ!」
「・・・・ケーキはいらんぞ」
・・・なんでバレたんだ。
「あと、3日間だけじゃからな。そのあとはどっか他に行け」
「冷てぇの。・・・わかった。次はルッチんとこに行くさ」
カクはまたよくわからない視線を放ってよこした。
「お前、やっぱりいろいろ抜け出さねばいかんようじゃのう・・・・」
「さっきからほとんどお袋じゃねぇかよ、ぐちぐちと。今日は仕事ないしよ、楽しくやろうぜ。お前の好きなビール買ってくるからよ!」
勢いよく起き上がると頭がガンガンした。でも、いい。
床にだらしなく伸びきったジーンズを拾って足を突っ込み、靴を履いた。おっと、ゴーグルを忘れちゃいけねぇ。
「じゃ、行って来るからよ!」
振り返るとベッドの上で身を起こしたカクがいた。
寝癖でボサボサの頭。そこにだけ生活感があった。
やっぱ、まだまだ抜けられねぇな。
お前たちがそこにいると、俺、どうしても安心しちまうから。
ドアを開けるととんでもなく青い空が目に飛び込んできた。