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 「次の任務ですか?・・神父アベル」

 背が高くて細身の神父はその身体を回転させるように振り返り、どう見てもここ・・・教皇庁国務聖省特務分室には無関係に見える少女に向かって微笑んだ。

「た だの『アベル』でいいですよ、レイニアさん。あなたがトレス君を呼ぶみたいにね」

 姿勢を低くして顔を覗きこむ神父の澄んだ青い瞳に一瞬視線を合わせた少女はすぐに逸らした。珍しく紅が差した頬を隠すように長い髪を動かしてから改めて 神父の顔を見る。

「わたしがトレスをこう呼ぶのは別に・・・最初に会った時からの延長みたいなもので・・・」

 神父はなぜか嬉しそうな顔で頷いた。

「特別なんですね。わかりました。このこと、トレス君には言いました?全然わかってないかもしれないですよ」

 少女の金色の瞳が強い光を帯びた。

「そんなんじゃない。それにわかって欲しいことは何もない」

 高貴で美しく触れがたい存在がかの機械化歩兵の前にいつもあるのだから。その存在の両方が少女には眩しく失いたくないと思ってしまうものなのだから。

「わたしはあなたがとても好きですよ、レイニアさん。・・・あ、お迎えが来たみたいなので僕は行きますね」

 ひらひらと手を振って離れていく神父を見送りながら、少女は背後に目を向けようとはしなかった。
 見なくてもわかる。その規則正しい足音を聞けば。

「準備はいいのか、レイニア・スレイア?」

「鞄をひとつ、持ってくるだけ」

 彼女は彼を『神父』と呼ばない。彼も彼女を『シスター』と呼ばない。
 そのことを時々想いながら少女は次の任務に向かう。

2005.9.2

昔の拍手SS

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