冬っぽい5つの言葉

イラスト/雪の結晶◆◆タイトル こたつ◆◆

「・・・こたつ?」
「そうなんだよ、レイニア君。いやぁ、これがなかなか僕には理にかなっていると思える暖房の手段でね。まさしく、頭寒足熱の条件を満たしながら発生した熱 を逃がさずに無駄なく利用する。おまけに、こう、一緒に体験する人との間に不思議と親睦的空気を醸し出すんだよ」
「・・・親睦・・・」
(レイニア、嬉しそうに語るウィリアムの顔から、目をその傍らに立つユーグ、それから自分の隣りに立つトレスに順番に移動する)
「さあ、論より証拠。実際に体験してみようじゃないか」
(嬉々としながらウィリアム、こたつの一辺を占める)
「おお、なかなかに心地よい温度だ。ほらほら、3人とも。東洋に古くから伝わる神秘を味わいたまえ」
(前に進んだレイニアの進路をトレスの腕が遮る)
「念のため偵察を。背後で待機することを推奨する、レイニア」
「いや、あの、これは危険物でも何でもないんだけどねぇ。心配性だねぇ、トレス君は。おや、ユーグ、君も待機かい?」
(コツコツと靴音高く近づくトレス。足を止めたレイニアをかばうように隣に移動するユーグ)
「師匠には残念ながらいろいろと前科が・・・ありますからね。どうだい?ガンスリンガー」
(こたつに入ったトレス、無表情なままセンサーの数値を拾う)
「閉鎖空間内の温度の上昇を確認。摂氏20℃から22度へ上昇。さらに上昇中。身体に衣類を装着した状態ならば適温と確認。二人とも、前へ進め」
「何だかすごく大げさに聞こえてしまうねぇ」
(ため息混じりにパイプを咥えるウィリアム。レイニアとユーグはそれぞれ前に進み、残る二辺の一辺ずつを占める)
「・・・あたたかい」
「そうだろ?なかなか心地よいだろう?これは『堀りごたつ』という様式にのっとって僕が設計したものでね。床を掘り下げてあるから椅子に座る感覚で気軽に 体験できるんだ」
「ええと・・・・ここは最上階なわけですが、師匠・・・・どうやって掘られたんです?」
「いやぁ、それなんだよ、ユーグ。聞いてくれるかい、ちょっとした苦労話。君が言ったとおり、ここには地面がないだろう。だから、一旦床を切り取ってだ ね、そこにあらかじめ型を作っておいた床下部分を嵌め込まなくちゃいけなかったんだよ」
「・・・ということは、この下の部屋にいる人間が上を見上げると・・・・?」
「いや、大丈夫。そこにぬかりがあるわけがない。ちゃんと遠近法を考慮して、天井が平らでフレスコ画に飾られているように見えるように装飾しておいたか ら。いやぁ、模写というのも根気がいるものだねぇ。ん?どうしたね?トレス君」
(トレス、ケープを脱いでレイニアの肩に掛ける。レイニア、テーブルに頭をのせていつの間にか眠っている)
「レイニア・スレイアは5時間14分前に俺と任務を完了したばかりだ。身体に疲労が蓄積されていたと推測される」
「ああ・・・そうか。でも、この子を安心して眠らせることができたとなると、このこたつ、なかなかに成功だと言えるかもしれないね」
(ウィリアム、微笑する。トレス、無表情にひとつ頷き、ユーグ、そっと立ち上がる)
「コーヒーを淹れましょう。焼き菓子の残りも添えれば師匠の実験もさらに効果があがるかもしれない」
「ありがとう、ユーグ。ああ、何だか静かないい午後になりそうじゃないか」
(ウィリアム、窓から入る日差しに目を細め、淡く微笑する)




◆◆タイトル 忘年会◆◆

<今年1年にあった忘れたいことっておありになります?みなさん>
「特にない」
「お、即答ですね、トレス君!でも、君はほら、今年は撃たれたりなんだりで結構身体に怪我をしちゃいましたよね?そういうのって忘れたくないですか?」
「質問の意図が不明だ、ナイトロード神父。俺の機体は人間の身体とは構成部品もスペックも性能も異なる。痛みという感覚もない。部品交換さえ正常に終了で きれば問題はない」
「ああ、ほらほら、そんな風に言うから・・・・お隣りでレイニアさん、複雑な顔をなさってるじゃないですか〜」
「そうですよ、神父トレス。わたしとの約束を忘れたわけではないですね?わたしの許可なく壊れることは・・・違反ですよ」
「肯定。努力する、ミラノ公」
(レイニアの顔から緊張がとれたことを確認したアベル、カテリーナ、ケイトはこっそり微笑を交わす)
「ケイトさんはどうですか?忘れたいこと。例えば、暴走しがちな教授のこととか・・・」
<私の頭を痛くしてくださるのは、規定を無視して突然の出動要請をしたり、心を込めて準備したお茶菓子をちゃんと味わったかどうかもわからないうちに一瞬 で消費してしまう方の存在ですわね>
「あれぇ?ええと、そんなひどい人もいるんですね〜って・・・あは・・・は・・・」
(アベル、目の前にある空っぽの皿を見てひきつった笑みを浮かべる)
「過ぎたことを思い返している時間は、私にはないわ」
「・・・・カテリーナさん?」
(背筋を伸ばしたカテリーナ、紅茶を一口飲んでカップを置く)
「こうした時間がほんの少しずつあればいい。あとは、ただ前をみるだけ。前を見て、来るべき戦いに備えなければ」
(厳しい表情にやがて浮かんだ微笑が見るもの全員の心を包む)
「強いですね、カテリーナさん。強くて・・・素敵です」
「ありがとう、アベル」
(この人を守ろうと胸に誓う人々)
(守られていることを甘く温かに感じることをこの瞬間だけ自分に許したカテリーナ)




◆◆タイトル 鍋◆◆

「フォンデュ、と言えばやっぱりチーズが定番ですよね〜。ああ、あっつあつです〜」
(アベル、幸せそうにチーズをからめたパンを口に入れる)
「こら、へっぽこ!お前は見た目どおりのガリガリの身体してんだから、こういう食えるときにちゃんと肉を食っておけ!また雪野原の中でぶっ倒れても、今度 は放って行くからな」
(レオン、オイルがパチパチいっている鍋の中に肉を刺した自分のフォークを入れる)
<神父アベルならこちらもお好みじゃないかと思うんですけれど。いい香りでしょう?このチョコレート>
(微笑んだケイトと目を合わせ、カテリーナ、とろりとしたマシュマロに小さく口をつける)
「お勧めのワインもとっても美味しいですよ、ケイト。・・・・一緒に飲みたいわ」
<そう思ってくださるだけで十分ですわ。ちゃんと味覚の記憶を再現できますから、今もご一緒させていただいてるつもりです>
「こうして賑やかなのもいいものですな。ユーグ、僕としては君が焼いたパンもここで登場してもらいたいものだねぇ」
「あなたの好みに合わせて堅めに焼いておきましたから。準備してきましょう」
「そうそう。歯のありがたみを十分に感じられる堅さが僕は好きなんだ」
(笑顔を交わす師弟)
(ふと、全員の視線が二つの姿に集まった)
「身体に異常が認識されるのか?損害評価報告を、レイニア」
「・・・ちがう、ちがう。・・・・何と言うか・・・・こんな風なのは初めてだから・・・・」
(小声で言葉を交わす二人に全員の微笑が向けられる)
「圧倒、されちゃいましたか?レイニアさん。寒い冬にあったかい鍋、最高ですよね。あのですね、カテリーナさんが食べてるマシュマロもいいんですが、僕と してはレイニアさんにはこっち!このケイトさんお手製のスポンジケーキをお勧めしたいです。ちょっとブランデーの香りがして美味しいんですよ」
(アベル、チョコレートをたっぷり絡めたケーキを差し出す。レイニア、そっとフォークを受け取ると恐る恐る口に持っていく)
「・・・う・・・」
(笑顔とは程遠い表情に全員、息をひそめて見守る)
「損害評価報告を」
「・・・・甘い。とても」
「理解した。砂糖ぬきで紅茶を摂取することを推奨する」
(トレス、立ち上がってティーポットを持つと、レイニアの前に置かれたカップに紅茶を注ぐ)
「何だ、お前さんは辛党か?じゃあよ、このワインを試してみな。旨いぜ」
(レオン、歩いてきて手に持ったボトルからグラスに半分ほどワインを注ぐ)
<レイニアさん、甘いお菓子には不慣れでいらっしゃるんでしたよね。これからどんどんお勧めを召し上がっていただいて、いつか大きなケーキを焼いて差し上 げたいですわ>
「あ!その時にはぜひ僕にお相伴させてくださいね!きっとですよ」
(レイニア、自分に向いた笑顔を静かに眺めたあと、困ったようにトレスの顔を見る)
(トレス、無表情にその視線を受け止め、ひとつ頷く)
「適度な糖分は脳をはじめ身体の各部にプラスの効果をもつ。訓練に意味はあると理解する」
「笑顔でケーキを食べるレイニアさん、きっとものすごく可愛いでしょうね!」
(アベルの言葉に顔を紅潮させたレイニア、黙って俯く)
「寒い季節にはみんなでお鍋!あったまりますね」
(アベル、笑ったあとにそっと深い眼差しを二人に注ぐ)




◆◆タイトル クリスマス◆◆

「プレゼントってさ、やっぱり相手が驚くものが楽しいよね」
(ディートリッヒ、のんびりと机を回り、ケンプファーの傍らに立つ)
(イザーク、手に持った書籍から目を上げのんびりと声の主を見上げる)
「君の悪戯にはいつも十分驚かされていると思うんだが」
「それはどうかな。フリをしてるだけの時が多いんじゃないかと思うよ」
(唇に微笑を浮かべたディートリッヒ、小さな包みを机の上に置く)
「・・・これは?」
「君がとても欲しがっているもの・・・・そう言ったら、どうする?」
(イザーク、温度を感じさせない微笑を返す)
「そんな小さな包みの中に私の望みを閉じ込めてくれたというなら、奇跡に近い。それは大いに賞賛に値するが・・・開けるのは勘弁願いたいね」
「なぜさ。確かめたくないの、中身」
「もしも本当にそこに入っているのが私の願望の一端だったら、こんな風に叶ってしまうのはひどくつまらないことだからね。好み的にはむしろ、時間を掛けて じっくり攻めたい人間なんだよ、私は」
(形のよい唇を尖らせて見せるディートリッヒ。ゆっくりと書物を置くイザーク。二人の視線が絡み合う)
(イザーク、書物の傍らに置い てあったグラスを手の平にのせ、静かに中の液体を回す)
「・・・冗談だよ。これの中身は葉巻が一本、それだけ。ちょっと珍しい銘柄だっていうから、試してみたいんじゃないかと思っただけさ」
「ああ、それは素晴らしい」
(イザーク、グラスをディートリッヒに差し出し、それと交換に包みを受け取る)
「細巻き、だね」
「その手には太いのは似合わなそうだから」
(イザーク、丁寧に包装を解いて箱の蓋を開け、立ち上った香りに満足気に頷く)
「ありがとう、ディートリッヒ」
「・・・名前を呼ばれるとちょっとゾクゾクするな」
(グラスを上げたディートリッヒ、頭を傾けて中身を飲み干した)




◆◆タイトル 雪◆◆

「冷たい・・・、雪」
(レイニア、歩きながら頬に落ちてきた雪の感触を受け止める)
「寒いのか?レイニア」
(傍らを歩いていたトレス、歩調をゆるめる)
「大丈夫、ケープの内側も完全防御。なんだかすごく着膨れしてる気がする」
「肯定。卿の体温は普段の平均+−0.5℃以内だ」
「トレスは冷たくない?雪」
「冷たいという感覚を認識する器官は俺にはない」
「うん・・・そうだよね」
(レイニア、歩きながらトレスの顔を見上げ、微笑する)
「卿の顔にある表情の理由を質問していいか?」
(レイニア、小さく笑う)
「そういう時は、『なぜ笑ってるのか?』ってきけばいいと思う。・・・あのね、トレスの顔についた雪もわたしと同じですぐに溶けるでしょう?それが・・・ いいなって」
「起動している俺の身体には人間の80パーセントほどの温度がある。それを好むということか?」
「ほとんどあってるけど・・・ちょっと違うかな。上手く説明できない」
(レイニア、心の中で『魂の温度』という言葉を一人、転がす)
(トレス、止まらずに首だけを向けてレイニアの全身をサーチする)
「卿の身体の中で表面温度の低下が他より著しい部分がある」
(トレス、はめていた黒革の手袋を脱いでレイニアの手を取り、片方ずつはめてやる)
(レイニア、目を丸くしたまま言葉を失っている)
「俺の場合は周囲に溶け込むための偽装を兼ねた装備に過ぎない。実質的な必要はない。今後、外出する時はこれを使用することを推奨する」
(レイニア、大きいために脱げ落ちそうになる手袋をしっかり握りしめる)
「ありがとう、トレス」
「否定。支援義務を果たしただけだ」
「うん。・・・すごく、あたたかい」
「肯定。表面温度の上昇を確認した」
(トレス、右手をレイニアに差し出す)
(確認のためと言う理由を知っているレイニア、そっと左手をその手に委ねた)

2006.12.17

Copyright © ゆうゆうかんかん All Rights Reserved.