すごく楽しかったナミの誕生日。
すごくにぎやかだったナミの誕生日。
おれたちみんながいつもの通りの大騒ぎだったけど、でも、これだけワイワイなったのはコイツのせいなんじゃないかな、もしかして。
オレンジ色のゴーグルがかっこいいパウリー。
サンジとおんなじ髪の毛なのにいつもぺったりしてるのは、あのゴーグルをするためかな。
サンジのタバコよりも太い葉巻を吸って、ゾロやナミに負けないくらい酒を飲む(酔うのは一番早い)。
そして、なんだかよくわからなかったけど、パウリーはすごく声が大きかった。
「こら、ハレンチ娘、お前、そんな腕だの足だの男どもの前でさらすんじゃねぇ!」
「あのねぇ、何度も言うけどその呼び方はやめてよ。いいじゃない、わたしはこういう身軽なスタイルが好きなのよ」
「そうだそうだ!あんたも男ならこの自然の恵みをちゃんと言葉で賛美してさしあげろ!どう転んだって俺たちにゃあできねェ美しさじゃねェか」
「おいおいおい〜、これ以上サンジみたいなのが増えたら俺たちたまんないぜ。メロリンパワーには付き合いきれねぇ!」
「・・・まったくだ」
「あら、長鼻くんと剣士さんは女嫌い?うふふ」
「いや〜、面白いな、お前ら〜」
笑ってる、ルフィたち。
おれにはこういう話題はよくわからねぇ。トナカイだから。
パウリーは怒ってサンジは喜ぶ。
ナミの手足ってなんだか謎だ。
「もう、いいでしょう。今日はわたしの誕生日なんだから、文句は言いっこなしよ!」
ナミが言うとパウリーは頭を掻いた。
「ったく、似たような誕生日のくせによ」
小さな呟きが聞こえた気がした。
葉巻の匂いを辿ると見張り台の上からだった。
おれは知ってる。パウリーはよくここにいる。
おれにはよくわからない「わけあり」でこの船に乗ってきたパウリー。冒険しながら前へ進むだけのおれたちとは違って、帰る時間と場所が決まってる旅だ。
だから「麦わら海賊団」じゃない。でも、仲間だ。でもパウリーには待ってる仲間もいる。
「パウリー」
声をかけるとパウリーが飛び上がっておれの方を覗いた。
「なんだ、お前、来てたのか」
パウリーの大きな手が伸びてきておれを持ち上げ、それから隣に下ろしてくれた。こういう時、パウリーはすごくそっとそっと手を動かす。片手で首をひっつ かむゾロや力いっぱい抱きついてくるルフィと全然違う。おれ、壊れないのにな。大丈夫なのにな。
「今夜はウソップが見張り番じゃなかったのか?」
「ああ、ちょっと目が冴えちまってな。長鼻の野郎が眠そうだったから代わってやったんだ」
「優しいんだな、パウリーは」
言ったらパウリーの顔が真っ赤になった。まだ酔ってるのかな。
パウリーがドサッと座り込んだので、おれはその隣りに座った。
「なあ、パウリー」
「んー?」
パウリーの手がおれの頬に触れた。そうなんだ。なぜかパウリーはおれの頬に触るのが好きだ。この間ナミが笑いながら言ってた『かくれかわいいものまに あ』っていうやつらしい。治療しようかって訊いたら病気に似てるけど違うって言ってた。
「パウリーの誕生日っていつだ?」
パウリーの手に力が入った。毛が引っ張られてちょっと痛かった。
「そんなもん、聞いてどうする」
パウリーの目が遠くを見た。
おれはなんだか寂しくなった。
「パウリーには誕生日、ないのか?それともおれに言うの、いや?」
「ば・・・馬鹿!」
パウリーがすごい勢いでこっちを向いた。それから頭を掻いて、息を吐き出した。
「お前に言うのがいやなんてことは絶対にねぇよ。・・・ただなぁ、俺は今自分の誕生日を祝うとかそういうのがあまりやりたくねぇ気分なんだ。お前にはわか らねぇだろうけどよ」
「・・・いつもの仲間がいないから?」
「お前・・・」
夢中になっていたおれは気がついたらパウリーの足の上に両手をのせていた。
パウリーはじっとおれの顔を見てたけど、ポンッとおれの帽子を叩いてにっこり笑った。
「すげぇな、お前」
「何が?」
「何でもいいさ。とにかくすげぇ」
訳がわからないで褒められてもうれしくねぇ。うれしくねぇけど・・・・
パウリーはおれを抱き上げて足にのっけてくれた。
「俺の誕生日よ、結構近いんだぜ。7月8日だ」
「うわ、もうすぐだ!ナミとほとんど一緒だな!」
「だろ?こんなに近い誕生日なのによ、あの娘ときたら俺とは似ても似つかねぇハレンチぶりだ」
「はれんち・・・・?パウリーは毎日そう言うけど、それってサンジには嬉しいことなんだろ?」
背中の後ろでパウリーが笑った。
「いいさ、お前にはわからなくても全然いい」
「う〜ん・・・・?」
パウリーの顔を見ようと思って頭を後ろに倒すと星空が見えた。今夜は月がないんだ。だからこんなに星がいっぱい見える。
「きれーだな〜」
パウリーも上を向いたから、がっしりした顎が見えた。
「俺はずっと明るい街にいたからなぁ。やっぱ、こういうのもいいもんだな〜」
「パウリー、誕生日、何が欲しい?」
「馬鹿。いいか、俺の誕生日、誰にも言うなよ。俺とお前の秘密だぞ」
「うん・・・・パウリーがそうしろって言うならがんばるよ。でも、おれは誕生日を知ってるわけだから、こっそりお祝いしていいだろ?いやか?」
俺を見下ろすパウリーの顔が逆さまに見えた。やっぱりまだ酔ってる。顔がまた赤い。
「・・・そうだな。俺の誕生日にはよ、今度はここで一緒に昼寝してくれ」
「え、そんなんでいいのか?」
「ああ。そういうのがいい!」
そう言って笑ったパウリーの顔はなんだか子どもみたいで、なんだか見覚えがあった。
ああ、そうか。
ルフィもゾロもサンジもウソップも、こんな顔をして笑うことがある。それがすごく似てるんだ。
男同士。大切な仲間。
パウリーとの秘密は男の約束だから、おれ、絶対にしゃべらない。
それからこっそり内緒のプレゼントも用意しよう。
考え出したら止まらなくなって、嬉しい気分も止まらなくなった。
おれが見上げたまま笑ったら、パウリーはさっきよりももっと大きく笑った。