やっぱりな。
審判に食ってかかるコックを見た俺の心の中に湧き上がってきた感想。
ああいう奴なんだな。
馬鹿でかいヌルヌル男に追われながら、俺の視線はあいつを向いていた。
俺と違って、あいつはデービーバックファイトがどういうものか知っていたし。
「海賊同士のえげつないゲーム」だとか何とか醒めた口調で言っていた。
はじまってみると、なるほどだった。
妨害あり、トラップあり。とにかくゲームに勝てばそれでいい、海賊流。
だから、凶器禁止のはずのゲームの中で相手の巨人野郎の靴の底にベタベタ張り付いてる刃物を見たときも、それは俺にとって「なるほど」だった。相手がそ うくるならこっちはそれをふまえて動く。それだけだ。
でもコックの奴は。
怒りのままに抗議するアホコック。
頭にボールを乗っけた格好は、なんだかどっか子供くせぇ。だから実はぴったりだ。
口でどれだけ大人ぶっても、こいつの本質は直情的なガキだ。「札付きのワル」だと自分に言い聞かせながら、結局海賊になりきれてねぇ。
海賊同士の体丸ごとのボール遊びをルールに則ったスポーツ感覚で挑みやがる。
戦いの中で自然と互いの次を読んで動くあの瞬間がこないのは、これがえげつなくてもなんでもゲームだからなのかもしれない。
コックも俺も自分のペースで相手に突っ込んで、逆にしこたまくらった。相手を探る段階としてはなかなかのダメージだった。
でも、相手が見えた。肌でわかった。
ひっくり返った地面の上で目を開けると、あいつがそばに倒れているのを感じた。
リーチの長さ、スピード、切れ味。
連中のそれと俺たちの体技の組み合わせなら、あともうちょっとの時間でケリがつく。とにかくうざったい連中は放り出して敵のボールをリングに叩き込むま でだ。
こいつにもそれはわかっただろう。
「おいコック、10秒手ぇ貸せ」
「妥当な時間だな」
やっぱりな。
麦わら海賊団だから、こいつも俺も。
海賊がどうのこうのと一口に言う中に、敢えて自分たちを入れる必要はねぇ。
相手の連中がどうだろうと俺たちはいつもどおりにやる。さっきとの違いはゲームから戦闘へちょっと気分を移すだけだ。
相手はさらにあからさまな凶器を引っ張り出してきやがったが。
いいのかよ、両刃の刃って奴になっちまうんじゃねぇか、それ。
・・・・誰が、レタスだ。料理の話はうちのコックだけで十分だ。
コックがいつもの動きで先頭の野郎に向かっていった。ここはまだ、俺の出番じゃねぇ。
予想通り、コックの相手が蹴り飛ばされた。
頭に血を上らせた2番手が動いた時、俺の身体も動いていた。
チーム戦だ、忘れるな。
刀があってもなくても関係ねぇ。
俺たちは最後の標的、ボールの大男に向かって走った。
途中で邪魔だった野郎をコックが蹴散らした時、一瞬、俺たちは目を合わせた。
馬鹿でかいボール野郎の身体を引き倒して頭をリングにぶちこむには。
コックの足が動き出した時、俺はそれに向かってジャンプしていた。
俺を飛ばす前のコックの口に笑みが見えたのは気のせいか。
「アルメ・ド・レール、パワーシュート!!!!」
俺の身体は一気に飛んだ。
・・・名前つけてんのかよ、おい。
これだけの勢いがついた俺にとって、突っ立ってるしかどうしようもなくなっている巨人は重たいだけのただのボールだ。つかみやすそうな場所をひっつかん で、地面のリングに頭を叩き込んだ。
勝ったあとのフィールドで、コックも俺も互いには何も言わなかった。
勝った。
それだけだ。
こういうところは俺たちはどこか似てるのかもしれない。
・・・ナミたちの前に戻ったあいつとはぜってぇに似てねぇが。
涙まみれのチョッパーが戻って、残るは最後の3回戦、コンバット。
船長が勝利するのを待つだけだ。
俺とあいつはまたぶつかりあってナミに止められちまったが。
それでも、俺の身体は。
宙を飛んだあの感じをしばらくは忘れねぇだろう。