Daybreak 3

 それから二晩続けてDaybreakの店内のその同じテーブルに 柚螺の姿があった。5分とは違わない同じ時間。ライブがはじまる7時過ぎにギリギリ間に合って椅子に滑り込む。間髪いれずにマスターが供す る冷たいドリンクを行儀を気にしながら一気に半分ほどを飲んで喉を潤す。それから大体タイミングよくはじまる演奏と歌声を一心に聴き、三人のトークに笑顔 を見せ、いつの間にか姿を消してしまう。

「なあ、今日もあの子、いたよな?」

 店の奥、四人の控え室として提供されている小部屋・・・狭いながらもシャワーブースつき・・・で悟空は洗ったばかりの髪をタオルでゴシゴシとふきながら スツールによじ登った。

「いらしてましたよね。悟浄のちょっと寒い駄洒落にもニッコリしてたと思います」

「え、アレ寒かった?はは、全然気がつかんかったわ。ふぅん、 柚螺ちゃん、だっけ。それでも笑ってくれてたんだ」

 頭を掻きながら笑う悟浄に八戒は冷えた缶ビールを渡した。

「でもさ、あの子、いつの間にか来ていつの間にか帰っちゃうんだよな〜」

 どうやら悟空は 柚螺の18歳という年齢と幼い感じの外見に一目で親近感を抱いたらしい。ライブ目当てで店に来てくれる客は圧倒的に女性が多い。年齢的には 悟空よりも年上の割合が高く、見た目から言えばその年齢はさらにプラス2,3歳が追加される。だから悟空はいつも『可愛い』と言われてしまう。本人が気持 ちよくカッコよくドラムを叩けば叩くほど高まる熱をこめて。

「僕ももう少しお話してみたいと思っているんですが・・・」

「やっぱアレかな〜、門限が厳しいとか。じゃなきゃ実はうんと遠くに住んでるとか」

「モン・・・ゲン?それ、何?悟浄」

「お前にもあったろうが、もっとちっこかった頃。そこの無愛想ぼーかるに〇時までに帰れとか何とか約束させられてたろ?」

「え、俺、3時にはちゃんと一回帰ってたもん」

「・・・理由は聞くまでもねぇな」

「ふふ。悟空らしいですね」

 八戒は無言のまま煙をくゆらしている三蔵を見た。心ここにあらずといった気だるい表情からは三人の会話を聞いているのかどうかさえわからない。

「三蔵。ちゃんと一度くらいは 柚螺さんに視線か何かで合図してあげたんでしょうね?わかってないかもしれないから言っておきますが、 柚螺さんは多分あなたの歌を聴きにここへ来てるんですよ」

「え、マジ?へぇ〜、いいよな、三蔵」

「やっぱ八戒もそう思うわけね。かなり嘘臭いけど実は俺もそう思ってたぜ」

 注目する三人の前で三蔵はまた細く煙を吐いた。

「聞いてんのか?こいつ」

「さあ・・・。もしかしたら 柚螺さんの黒い瞳でも思い出してるのかもしれないですね」

 その時、予想通りにちらりと視線を向けた三蔵に向かって八戒はこの上なく心を込めた微笑をおくった。

「ああ、違いました。 柚螺さんの目の色は青、でしたね・・・あなたが覚えている通り」

 チッ。
 三蔵が心の中でした舌打ちを聞き逃した者はおそらく誰もいなかった。

2006.5.26

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