闇に吸い込まれそうな弦月の下で、ただ、身体を寄せて座っていた。
こういう時に限っては静寂な空気を騒がす者もなく、思い思いの方角を向いたそれぞれの顔には少しだけ気持ちを秘めた表情が浮かんでいた。
目をやわらかく閉じている顔。
俯き加減に何かそこにないものを見ている顔。
空に向かって視線を上げかけた顔。
己の膝に肘をのせ曲げた腕に黙って頭を預けている顔。
それぞれがただ互いに触れ合う背中の温度を感じていた。
なぜ一緒にいるのだろう。
似たところなどほとんどない者どうし。なのに出会ったときからまるで決まっていたことのようにともに生きてきた。
失くしたものがある。
だから、もう失くさないものが欲しいのだろうか。失くさないと決めて一人で歩いてきた道で、いつのまにか傍らには自分以外の体温がある。
誰のためでもなく自分のためにここにいる。それがわかっていることの幸運を知っている。
一陣の風が吹き過ぎた。
「・・・さみぃ」
「んだよ、悟浄!すげぇ音で鼻水啜んなよ」
「悟空の高い体温、ありがたいですね〜」
「・・・・」
「あれ?さんぞー、寝てる?」
「おやおや、三蔵、起きてください!こんなとこで寝ちゃったら死にますよ〜」
「・・・・雪山じゃねぇんだからよ」
「・・・・」
「気持ち良さそうな寝息ですね〜。すっかり安心してる子どもみたいです」
「・・・ったく。しかたねぇ、もう少しだけ眠らせてやるか。起こすとぜってー怒るしよ」
「じゃあさ、ほら、三蔵が風邪ひかないように、もうちょっとみんな、くっつこうぜ!」
「・・・・ぐー」
「三蔵、どんな顔で眠ってるんでしょうねぇ」
「案外、涎垂らしてたりしてな!猿みてぇに」
「るせぇ!・・・・でも、何か美味いもの食ってる夢、見てるかなぁ」
「・・・・(スヤスヤ)」
「俺なら綺麗なお姉さんか可愛いコの、こう、ちょっとばかり詳細とか気持ちいい手触りとかリアルな夢、希望だな!まあ、こういう大人の夢は俺とせいぜい八 戒にしか無理だろうけどよ」
「何だよ、それ。三蔵だって一番年上じゃん!」
「何と言いますか、人生経験の違いというのは時には年齢を超えるものなんですよ、悟空」
「・・」
「あ、でも、三蔵の寝顔、いいよな!俺、見たら安心して寝れる」
「悟空にとっては安心の源みたいなものなんですね。やっぱり三蔵は特別ですか?」
「寝てるとほんと、別人だよな。静かだし、一歩間違うとそっち受けしちまいそうだし」
「あ〜、なんか三蔵の顔、見たくなった!」
「そうですねぇ。背中合わせもちょっと飽きてきましたか」
「じゃあ、起こす前に拝んどくか?眠れる美女の顔」
「びじょ?」
「そー。禁断の金髪美人クソ坊主」
「なんだかだんだん訳が分からなくなってきましたねぇ」
「じゃあさ、せーのーで・・・・ってさ、なんか、三蔵、静かじゃね?」
「そりゃあ眠ってるから・・・・って、確かにさっきまで聞こえてた寝息が聞こえねぇな」
「ちょっとだけ嫌な予感がするような・・・・」
「え?なんの?八戒」
「・・・てめェら・・・」
阿鼻叫喚を予感させる低い声。
立ち上がり顔を合わせた四人の姿に淡い月光が降り注いだ。
眉間に深い皺を刻んだ仏頂面。
目を丸くした邪気のない不思議そうな顔。
これから起こる事態を正確に読んだ結果の苦笑。
受けて立とうという不敵な笑み。
一番最初に響いた声は誰のものだっただろう。
地を蹴って走る足音にやがて銃声が混じった。
頬を撫ぜながら通り過ぎる風の中で、それぞれの唇はどうにも抑えきれずに曲線を描いていた。