「見てよ、ナミさん」
「・・・うわ!なに、どうしたの?あれ」
「クッソ〜!あのマリモ野郎、なんで、どうやってロビンちゃんの膝枕・・・・」
「しっ!いい、サンジ君、これはあたしたちだけの秘密よ」
「・・・やっぱそう思う?ナミさん」
膝の上のあたたかな重み。時々肌に感じるゾロの呼吸。
ロビンはしばらくの間身体を緊張させ続けていた。
他人と間の距離がゼロであるという初めての体験。目の前に転がっている逞しい体。いかにも無防備に見える頭のつむじ。初めて意識した耳の形と金色のピア ス。
油断すると乱れてしまいそうな己の呼吸を抑えるのが精一杯で、そっと息をひそめていた。
その時、手の中に動きを感じた。海風に揺れた一輪の花。その姿を見た瞬間、心がほどけた。
どんな顔でこの花を買ったの?剣士さん。
そして・・・・どうして買ったの?
答えが返るはずのない心の中の問いとともに唇に微笑が浮かぶ。花とともに分け与えられている温度と重さに心の底まで満たされる。
いいの?こんな簡単に私にあなたを預けて。
満ちた思いはただ溢れるばかりだ。
「・・・眠ったの?剣士さん」
返事はない。代わりに規則正しい呼吸が耳に入ってきた。
「ふふ・・・」
自分が与えられている幸福に何かを返したいと願った。けれど返すことが出来るものを何も思いつけず、考えながら目を閉じた。
あたたかい。ただ、あたたかい。
傾いてからしばらく経つ太陽の光の熱よりもずっと高く感じる熱を膝に抱いて。
ロビンの身体はやわらかく弛緩した。
どうやら女を解放する必要はなくなったようだ。
ゾロは背中に感じるロビンの頭の感触に口角を上げた。恐らく花を握ったまま眠ってしまったらしいその姿を想像すると笑みが零れて止まらない。
やっぱ、ガキじゃねぇか。懐に・・・現実は背中だが・・・こんな簡単に命を預けやがって。
並みの大人以上の人生の経験値と、それと一緒にしなやかな身体のどこかに隠れ潜んでいる幼い子ども。その組み合わせがゾロの背筋を興奮のシグナルとなっ て駆け上がる。
だが、今は。まだ。
ゾロはそっと頭を動かして具合のいい位置を探り、改めて目を閉じた。
いい気分だ。
そっと片手を回してあたたかな膝を抱いた。
「それにしても、ちょっと信じられない眺めよね」
「なんつぅか・・・・・大人の色香というよりさ、ほら、身体をくっつけあって眠る子犬?」
「そうそう。あったかそうで、幸せそうで、可愛いの」
「・・・・ナミさん、涙?」
「るさい。嬉しくなっちゃっただけよ。ロビンが・・・・なんだかとってもあったかそうだから」
「だよね。クソマリモはおいといて、ロビンちゃん、すっげェ可愛い・・・」
「・・・・さて、名残惜しい気もするけど、そろそろ退散しましょ」
「了解。優しいね、ナミさん」
「ふふ。・・・・でもねぇ、この眺めにはいつかそのうち違う意味が出てくるのかしら?」
「まあさ、どんな風に色づくかは当の本人達次第ってとこ?」
「・・・・なんかすんごくじれったいことになりそうね」
「それ、当たり。俺、今までだっていいだけジリジリしてきたもん」
「あら・・・先輩だったんだ、サンジ君。一人で大変だったわね」
「これからはナミさんが同志だから、もう少し楽しめそう」
「以後、よろしくね!」
「こちらこそ、マイ・レイディ」