「なんだ、お前ら・・・・・
リンも一緒だったか?」
3人がメリー号に戻ると、ゾロが甲板で素振りをしていた。
「いいから、今日はてめぇも手伝えよ!もうあんまり時間がねぇんだからな!」
「って、いきなりなんなんだ、お前」
「でかいケーキ作るんだ!チョッパーの誕生日だ!」
ルフィの言葉を聞いたゾロは口から飛び出しかかっていた言葉を飲み込んだ。
「お前も手伝いか?」
リンが微笑んで頷くと、ゾロは頭を掻いた。
「・・・・・ったく、仕方ねぇな・・・」
「いいからよ!とにかく全員キッチン集合だ!・・・あ、ルフィ。お前は甲板の雪かきだ。真面目にやれよ、遊んでんじゃねぇぞ!」
「わかった!」
甲板にルフィを残し、サンジ、ゾロ、そして
リンはキッチンに入った。
サンジは抱えていた袋をテーブルの上において、中身を広げた。
天然色満載。空気が一度に香りたった。
「お前、これ・・・・・一体どんだけ買い込んできたんだ?」
ゾロが思わず声を上げるほど、フルーツの数は多かった。中でも鮮やかな色の葡萄の数が一番多い。それから洋ナシ、ベリー類・・・・・テーブルの上は季節 が一度にやってきた様子だった。
「二人とも剣士だ、刃物は得意だろ。これ、全部、皮むいてくれ」
サンジは刃が光るナイフを二人の前に置いた。
「ちょっと待て・・・葡萄も皮とれってか?」
「ったりめぇだ。種も出してくれ」
ゾロの眉間に皺がよった。そして口が半分開きかけた。
その時、
リンがナイフを持って洋ナシを取り上げた。刃先を器用に使ってクルクルと皮を剥いていく。その真面目な表情を見たゾロは、息 をひとつ吐くと葡萄の房を手に持った。
「
リンちゃん、うまいなぁ!その調子でどんどん頼むぜ・・・・って、おい!握りつぶしてんじゃねぇよ!」
ゾロの指の間で葡萄の粒が盛大に汁をとばした。額の皺が深くなり、次の粒を恐る恐るもぎ取る。その様子を見た
リンとサンジは思わず笑いそうになり、あわてて呼吸を止めた。
「頼むぜ、ホントに」
サンジは特製のスポンジケーキの準備を始めた。
甘さは極ひかえめ。ほのかに洋酒の香りをきかせ・・・・強すぎるとチョッパーは食べられないのだ・・・・大きな四角い型に生地を流し込む。
型をオーブンに入れてしまうと、そこからサンジのめまぐるしい活動がはじまった。
リンとゾロが皮をむいた果物をそれぞれ一口サイズに切り、レモン汁をかけたり洋酒に浸したり、シロップに漬け込んだり。その 合間にこれまた甘さひかえめのカスタードクリームを作り、ケーキ以外の料理の下ごしらえも進める。
そのうちスポンジが焼きあがると型からきれいにとりだして、冷めるのを待つ間にまたひと奮戦。
(すごい・・・・・・)
リンは手を動かしながら時々サンジの動きに見とれた。そして、ゾロも。興味がなさそうな顔をしながら、時折視線を向けてい た。
「あいつ・・・・何かお前に言ってきたか?」
ゾロの低い声に
リンは目を上げた。
「ケーキのこと・・・?」
「いや・・・別にいいけどよ」
リンはちょっと考えていた。そのためか、手の動きがほんの少し曖昧になり・・・・
(あ・・・・)
一瞬の冷たさの後、指先から赤い雫が伝ってテーブルに落ちた。
「おい」
ゾロが反射的に
リンの手を掴んで、指の傷に唇をあてた。
「あ・・・ゾロ、あの・・・・」
リンは指を切ったことよりもゾロの行動に心を揺られて口ごもった。
「なんだ、
リンちゃん、大丈夫か?」
サンジが清潔な布を持ってきた。それを受け取ったゾロは布を細めに裂いて、
リンの指に巻いた。
「ナイフの砥ぎだけは一流だな。すこし押さえとけよ。後でチョッパーに診てもらえ」
うなずく
リンの頬はかすかに染まっていた。
(か〜〜〜〜っ!この、この・・・・・・・)
サンジは一瞬口をぱくぱくさせた。何をどうコメントしたいのか自分でもわからなくなったのだ。
「ごめんなさい、サンジ君。ほとんど剥き終っててよかった。あとは何を手伝ったらいい?」
自分を見上げる
リンの視線に気を取り直したサンジは、にっこり一礼した。
「
リンちゃんにはケーキの飾り付けを手伝ってもらうぜ。・・・マリモはテーブル周りの片付けとセッティングだ。あと、ルフィの つまみ食いを阻止しろ」
「誰がマリモだ、こら」
言いながらもゾロはゆっくり立ち上がった。そして、その視線が
リンに落ちた。
リンは黙って座っていた。ゾロは次に視線をサンジに向けた。
(わかってるから、睨むなよ)
サンジは
リンに手を差し出した。
「あのさ、
リンちゃん。今日のケーキに生クリームは使わないんだ。だったら大丈夫だろ?俺がこれまでに1度だけ作ったことがある特別な ケーキなんだ」
リンは再びサンジを見上げ、それからゾロを見た。視線をサンジに戻した時、
リンの表情は穏やかだった。
「やっぱり気がついてたよね。・・・・・ごめんなさい、サンジ君」
「いや、人の好みはほら、それぞれだし。事情とかそういうのもそれぞれだから、さ。でさ、今日のはクリームで飾るよりも時間がかかるんだ。だから、よろし く頼むぜ」
リンは微笑んで立った。ゾロはテーブルの上の皮の山を片付け始めている。
「今日のはてめぇも絶対食えよ。旨いって言わせてやるからな」
「・・・・今日もやたらと挑戦的だな、お前。食わねぇって言ったらどうする気だ?」
サンジは予想通りの言葉に内心小躍りした。
「てめぇ、
リンちゃんが一生懸命皮むきして、おまけに飾り付けするケーキだぞ。それを全然食わないって言うつもりか?」
ゾロと
リンの身体の動きが止まった。
(あら〜、
リンちゃんまでいじめちまったか)
それでもサンジは勝利の予感にわくわくしていた。
(ったく、このアホコック・・・・・)
「食えばいいんだろ」
「そうだ、それでいいんだ!」
あっさり兜を脱いだゾロに少々拍子抜けしながらも、サンジは胸の前で腕組みをして胸を張った。
(単純なやつだな・・・・・・)
ゾロは半分あきれた。
リンも笑いを噛み殺している。
(俺や
リンにケーキを旨いと思わせることが、こいつにはどんだけ重要なのか)
片づけを適当に終わらせて、することがなくなったゾロはどっかりと椅子に腰を下ろした。目の前では
リンがサンジの指導のもと、ケーキを飾り始めている。
その頃、甲板ではルフィが一人で思う存分雪ダルマを作っていたが。誰もそれに気がついてはいなかった。