自分の身体の下で震え喘ぐ豊満な白い身体の柔らかさに、ゾロは記憶と一致する感触を見出していた。ああ、あの時もこうだった。この慣れない感触に深く沈ん でいく快感は彼にとってどこか危険が感じられる一時の強力な麻薬だった。そう、あの時は。
マーシラが目を開けた。潤んだ瞳がゾロを見つめている。何かを探し求めている。答えになるかはわからなかったが唇をふさいでやると、切ない息が伝わって きた。深く貪欲に求めてくる女の姿はゾロの記憶の中のマーシラとは重ならない部分だった。この女を満たすことができるのか。ゾロは指先の動きを変えた。
マーシラが声を上げて達した時、ゾロは短く息を吐いた。
「・・・・冷たい汗ね」
マーシラの白い指先がゾロの額の汗に触れた。
「もっと最初で気がついてたら・・・・・。ゾロ、あんた、こんな風にやさしく女を抱けるようになったのね。誰か、いるの?」
ゾロは汗を拭ってマーシラの隣りに仰向けに横たわった。そのゾロに向かって再び手をさし伸ばしかけたマーシラは、途中でやめて笑った。
「あの時はただ奪うだけだったのに。・・・・変な言い方だけど、若かったわね。ふふ、まだ全然若造なのにね」
ゾロは身を起こし、衣類を身につけ始めた。
「船に戻る」
「あら、ダメよ〜。一晩借りるって言っちゃったのにあんたがさっさと帰ったら、わたしのプライドが傷だらけになるじゃない」
ゾロは唇をゆがめた。
「そんな安いプライド、持ってねぇだろ」
マーシラも笑みを浮かべた。
「あら、わかってるじゃない。ちょっと言ってみただけよ。・・・・ねぇ、まさか、船の仲間の中にその人がいるの?」
ゾロは無言で刀を1本ずつ腰に差した。
「あらら、だとしたらまずいわね〜。馬鹿ね、ゾロ。なんで言わなかったのよ。なんで断らなかったのよ。普通の女にとって許せないわよ、あんたのこれ」
「約束したからな」
マーシラの顔から笑みが消えた。
「馬鹿。何年も前の約束、女に飢えてるわけでもないあんたには何の得にもならない口約束じゃない。もう・・・・・馬鹿!何回言っても足りないわよ」
素直に怒りを表すマーシラを、ゾロは首を傾げて眺めた。
「なんでお前が怒ってんだ。おかしな女だな」
「なによ、余裕見せちゃって。わたしをおろおろさせる男になっちゃって」
マーシラの瞳にふっと真面目な色が浮かんだ。
「あんたが約束を守る男で嬉しかったわ。いろいろ流れ歩いてる時もあんたの噂は結構耳に入ってきてね、どうせあることないこと混ざってるだろうか ら・・・・ちょっと心配だったのよ。ねぇ、ゾロ・・・・・後悔はしてない?」
ゾロはベッドとその上のマーシラに背を向けてドアに向かって歩き始めた。
「初めての女がお前でよかった・・・・・って思ってる」
低い声の余韻が残っている間にゾロの姿は部屋の外へ消えていた。
胸の中に湧き起こる早足になりたい衝動。
ゾロはその慣れない気分を抑えていた。急いでも何も変わらない。1歩1歩しっかり足を運びながら考えたほうがいい。
考える・・・・・何を?
生真面目な緑色の瞳が心に浮かんだ。
(普通の女は許さない、か・・・・・)
あの
リンの瞳がゾロを責めたら、
リンの口から怒りの言葉が溢れたら。
ゾロは元々物事を丁寧に説明するのは苦手だ。まして、上手い説明など思いつかない。
先行きが暗く重くなっていく感じとは裏腹にゾロの歩調は自然と速まっていた。もう、考えるだけ無駄な気がした。自分の気持ちが固ければそれでいい。
リンの気持ちは
リンが決めるものだ。
それでも見えてきたゴーイングメリー号の見張り台に
リンの銀色の髪をみとめたとき、ゾロはほんの一瞬、足を止めた。まだ距離があるのに見つめ合っている自分たちを感じた。その 顔に浮かぶ表情を確かめたくて、ゾロは一気に走った。