「で、いつの間にこうなってるわけ?」
あきれるべきか怒るべきか悩みながら、ナミは言った。
夜番あけの
リンを心配になって様子を見ようと早起きをしたのだが、
リンはラウンジでこれまた寝不足らしい瞳を充血させたサンジが淹れた早朝のコーヒーを飲んでいた。そして、その隣りにはゾロ がいた。
「・・んとにそうだぜ。てめぇ、こら、このクソマリモ!いつのこのこ帰って来やがった」
サンジは思わず自然にゾロにもコーヒーを出してしまったことを激しく後悔していた。まるで何にもなかったみたいに平然とくつろいでいるゾロ。
リンの方がちょっとすまなそうな顔をちらちら見せているので余計に訳が分からない。
「うるせぇな。お前たちには関係ねぇだろ」
面倒くさそうに答えるゾロの声がさらに二人の怒りを誘う。
「大体、てめぇ、あんな美人の大人の女性に知り合いがいるなんて、俺は一言も聞いてねぇぞ!」
「ちょっとサンジ君、なんか論点ずれてるわよ!いい?ゾロ!あんた、いくら
リンの心が広いからって言ってもわたしは許さないわよ!認めませんからね!」
リンは吹き出した。ゾロは目を閉じて壁にもたれたままだ。
(なんなのよ、こいつったら・・・・・・・)
怒りおさまらないナミは、一瞬言うべきことが浮かばないで唇を噛んでいたが、ふと、ひとつ思いついて笑みを浮かべた。
「そうだ、
リン。あんた、今日、あのマーシラとかいう女のところに行くんでしょ?スカウトされたとか言ってたものね〜」
ゾロが目を開けた。
「え、ちょっと、ナミさん、突然・・・・・」
サンジまでが動揺したのが計算外だったが、ナミは続けた。
「用心棒か、そうじゃない方の仕事か、選んでいいんだったわよね〜」
ゾロの背筋がピンと伸びた。
「
リンちゃん!俺、聞いてないよ、そんな話!そりゃぁ
リンちゃんは魅力的だからスカウトしたくなる気持ちも分かるけど・・・・・・」
「サンジ君、あの・・・・・」
慌てて
リンが口を開いたその時。ゾロが
リンの手をつかんだ。
「どういうことだ?あいつ、お前を誘ったのか?・・・・・そう言やぁ、なんだか言ってたが・・・・」
「わたしたちが仲間だってわかる前の話だから、もう、なんでもないと思うけど。でも、ちゃんと断らないといけないなと思って・・・・」
ゾロが立ち上がった。
「一緒に行く」
「でも、一人で大丈夫だから。あの・・・ゾロがまたあそこに行くのはなんだか・・・ちょっと・・・・・」
リンにしてみれば精一杯の発言だったのだが。
「俺も行く」
ゾロの気持ちはかなりかたいようだった。
リンの言葉がちゃんと耳に入ったかどうかも少々あやしい。
ゾロは
リンの手をつかんだままずんずんラウンジを出て行った。
ナミはテーブルを叩いて笑い転げた。
「見た?あのゾロの顔!」
サンジはナミにコーヒーのカップを渡すと、自分もスツールに座った。
「でもさぁ、ナミさん。あのマリモマンとマーシラとかいう女性が二人揃ったところ、
リンちゃん、見たらキツクねぇ?なんたって昨日は・・・・・・」
「甘いわね、サンジ君。あのゾロを見なかったの?もうすっかりいつものゾロじゃない。いつもの平気な顔して見せてるくせに
リンにとことん惚れてるゾロ。昨日のゾロとあの女性の『約束』がなんだったかは知らないけど、もうちゃんと終わったんで しょ。心配いらないわよ」
(やっぱり、あの二人が簡単に離れちゃうわけなかったのよね。にしても、
リン、ちゃんとゾロに怒れたかしら?なんだかそんな感じじゃないわよねぇ。)
ナミは一人でコーヒーカップをあげて乾杯した。
「つきあうよ、ナミさん」
サンジも笑顔でカップを上げた。
「初めての人、かぁ・・・・・」
呟くナミの横顔は普段よりも少女らしく見えた。
サンジはしばし、それに見とれた。