「トギシ?トギシって何だ?」
「砥師ってのはなぁ・・・・」
船上での早い朝食の後、船は静かに港に入った。
マストの天辺で翻る麦わら帽子をかぶった髑髏の図柄に特に反応するものはいないようだ。平和な港である証拠に、何人もの子供たちが埠頭をすぐそばまで 走ってきて珍しそうに船首を見上げている。とぼけた顔のおおきな羊とにらめっこだ。
「わかったよ、俺が上陸を諦めて留守番してやるよ」
子供たちを見たとたんにウソップが上陸第一陣を諦めたのは、「島に入ってはいけない病」のためだけではないらしい。うれしそうにポーズの練習を決めた 後、子供たちに向かって手でメガホンを作っている。
「お〜い、おまえたち〜。俺たちがやってきた冒険の話を聞きたいか〜?」
そんなウソップの様子を見て煙草を咥えた唇をゆがめたサンジは、一筋の煙を吐き出すと煙草の火をもみ消した。
「じゃあ、俺とナミさんは買出しに。昼飯は自分たちでなんとかしろよ。ウソップ、おまえの飯はキッチンに作ってあるからな!ナミさ〜〜〜ん、いい店を選ん でメニューは俺にまかせてくださいね〜〜〜」
サンジがナミに向かって語尾を延ばし始めるとゾロの顔には忍耐の表情が浮かび、ルフィはイシシ笑いになる。
「俺はまずメシ屋だな!」
「おまえ、さっき食ったばかりだろうが」
「そうよ。いい、ルフィ!頼むから持ち金以上に食べないでよ」
ナミはざっと計算して中味を入れた財布を船長に渡す。
「で、ゾロと
リンちゃんのその砥師って奴は町のどの辺なんだ?」
「町のはずれで山の麓の方だって話だ。行けばわかるさ」
「・・・・・
リン、ゾロについてっちゃだめよ。あんたがゾロを連れてってね!」
「何がいいたいんだ、ナミ、てめぇ」
リンの唇から笑い声がこぼれた。この船に乗ってから、これまで生きてきた分の倍以上声を出して笑った、と思う。笑うたびにひ とつずつ過去が整理されていくようで、気持ちがよかった。
「じゃ、行くぞ」
船を下りていくゾロの後を
リンが追う。
「あ、
リン!あんた、時間があったら病院に寄ってきなさいよ〜!ちゃんと傷を見てもらっといてね」
あわててひとこと追加したナミは遠ざかっていく二人の後姿を見ながら腕組みをした。
「どっちも言葉が全然たりないのよね〜」
「剣士ってのはそんなもんなんじゃないですか?
リンちゃんにはあの最高の微笑があるから大丈夫!」
「よ〜し、この次は
リンと下りて買い物に引っ張りまわそう!」
「では、俺たちも行きますか」
船べりから身を乗り出して落っこちそうになりながら語り続けるウソップの声を聞きながら、ナミとサンジも船を下りた。
砥師の家は・・・・・正確には砥師たちの館は町をまっすぐ通り抜けた先にあった。石造りの堅牢な館は3階立てで、その中に砥師たちそれぞれの専用の部屋 が15ほどあるという。剣士たちの間では伝説のように語られている館。これからグランドラインを進もうとする剣士たちのほとんどが足を運ぶといわれている 場所だ。
ゾロと
リンが通されたのはほの暗い1室だった。傷だらけの広い作業台の上に様々なキメの砥石が並び、床は水で濡れている。その作業 台の奥に小柄な老人が背の高いスツールに腰掛けていた。
「男のおまえさんが腰に3本、娘っこのあんたが背中に1本・・・・・。どうせ荒っぽい使い方をしてきたんだろう」
老人の言葉に二人は沈黙で答えた。どちらにも奪った命、つけた傷を語る趣味はなかった。
「どれ・・・・見せてみろ」
老人は身振りで抜くように指図した。そして抜いた刀・・・・
リンのは長剣だが・・・を下げる二人の方にゆっくりと歩み寄る。
しかし老人の目は刀というよりも二人の姿に向けられていた。強い視線だった。
「・・・手入れはしてるようだな。よかろう・・・預かろう。できるだけ早く砥ぎはするが、それでも夜まではかかる。それまで丸腰でいいのか、それとも代わ りの奴を貸すか。料金はもちろん別だ」
「俺は代わりはいらねぇが・・・」
ゾロは
リンの顔を見た。
「わたしもいりません」
結局二人とも刀と剣を預けて身体ひとつで館を後にした。
「存在感のある爺さんだったな」
「うん」
二人は知らなかったのだが、この館では誰もが無条件に刀や剣を砥ぎに出せるわけではなかった。刀と人の係わり合いを長年見続けてきたベテランが最初の受 付にあたり、人と刀両方を『見る』。そこで合格したものだけが砥ぎの注文を受けてもらえるのだ。
「おまえ、1本借りといた方がよかったんじゃねぇか?」
ゾロが言うと
リンは首を横に振った。
「・・・まあ、いいけどよ」
二人はのんびりと町の中心に歩いていった。
「昼までまだあるな・・・こっからは別行動でいいか。昼時にまたこの辺で会おうぜ」
「うん」
ゾロはそのまま歩いて行く。喉を潤しにいったか、それとも突然鍛錬したくなったのかもしれない。
リンはちょっとの間ゾロを見送り、ほうっと息を吐いた。急に背中が涼しく感じられた。いつも背負っている剣がないせい だ・・・と思った。
リンは雑貨屋でノートを数冊買い、次に本屋をのぞいた。小さな町にしては本屋の店内には充実した雰囲気が漂っていた。普通の オープンな本棚のほかに、ガラス戸に鍵がかかった棚がいくつもある。おそらく買える値段ではないので、店員に手に取らせてくれるように頼むわけにはいかな い。
リンはまずオープンな棚を全部チェックし、それから鍵つきの棚をじっくり眺めた。中でも1冊の背表紙が
リンの気持ちを惹いた。厚い革を装丁してできているその本のタイトルは『グランドライン絵日誌』。銀色の文字が好奇心を呼 ぶ。
「失礼、お客さん。すっかり魂とられちゃった感じですね。手にとって開いてみますか?」
陽気な声に傍らを見ると、いつの間にか。上衣の袖をまくった背の高い店員が
リンに笑いかけていた。濃い色の赤毛と緑色の瞳が印象的な青年だ。
「その本は縁あってうちに預かったもので、一人の船乗りの日誌なんですよ。なかなかいい本に目をつけましたね」
青年は胸のポケットから小さな鍵を取り出して鍵穴に差し込もうとした。
「ごめんなさい・・・・きっと開かせてもらったら手放したくなくなるし、でも買えないので。どうもありがとう」
リンはにっこり笑うと店員に背を向けた。
「ああ、勧め方を間違えちゃったかな。お客さん、いつかきっとこの本を読みに来てください!ずっとこいつはここで待ってるから」
あくまで陽気な店員の声を背に
リンはそっとつぶやいた。
「とっても勧め上手ですよ」
店を出た
リンはそのままゾロとの待ち合わせ場所に向かった。本屋に入ると時の流れがいつもとはまるでちがってしまう。ほんの15分ほ どのつもりがすでに1時間近くが過ぎていた。
(よかった・・・・まだお昼までちょっとだけある・・・・・)
ゾロと別れた辺りまで走った
リンは、1軒の店の前に並べられたテーブルに座った。外ならゾロが来てもすぐわかるだろう。とても喉が渇いていた。この島は 今まさに真夏。昼時近くの日差しが強い。
ウェイターが注文を取りにやってきて、なぜかクッキーをサービスしてくれた。他に客がいないので、グラスが半分も空にならないうちに何度もお代わりを勧 めにやってくる。
リンはすこし恥ずかしくて困った。こういうときナミみたいにちゃんと言葉で伝えられたらな、と思う。
リンは顔を伏せ気味にして冷たい林檎ジュースを味わった。
そして・・・気がついた。いつのまにか、ウェイターのお代わり攻撃が止まっている。そして人の気配が・・・
「こりゃあ美人だな。座らせてもらうぜ」
男たちが
リンが座るテーブルにやってきた。数は5人。銃を身につけているのがわかる。ボスらしい男がウェイターを指で呼びつける様子 はあまり感じがよくない。
「なんだ・・・愛嬌がねぇ女だな。色気もねぇし。仕込が足りねェな」
リンは男の薄い唇が言葉を吐き出すのを見ながら気配を探っていた。恐らくこの男たちも海賊で、島に着いたばかりだろう。
リンをみる目つきがギラついているのがわかる。煙草の匂いとニヤニヤ笑い。椅子を引き寄せて
リンを囲むように座る様子がいやな予感を誘った。
(剣士は・・・いない)
腰に刀を下げている男もいたが、気配からするとさほど扱いはうまくなさそうだ。本当なら、
リンは落ち着いていてもいいはずだが、今、
リンの背に剣はない。腕力では男たちには敵わない。
何か剣の代わりになるものはないかとそっと視線を動かすと、店の入り口に立つウェイターと目が合った。心配そうな表情で
リンの方を見ながら店の中にも視線を送っている。
「まずは酒だ〜!」
「つまみも上等なのを持って来い!」
「俺たち以外の客は後にしろよ、後に!」
口々に叫ぶ男たち。思ったとおり、小物だ。
ナミだったらうまく言葉でかわしてこの場から抜け出すだろう。ウソップはパチンコで一瞬の隙を作ることができる。ルフィとサンジは外見だけで誤解されて 真っ向勝負になって、あっさり勝ちをきめるだろう。ゾロは・・・・・
リンはいつのまにかメリー号のクルーたちのことを考えていた。
(ゾロなら、最初からこの男たちも手を出そうとしない・・・・・・)
メリー号の全員が強く、そしてうまく生きていく術を知っている、と
リンは思う。それぞれが互いにないものを自然に補い合いながら進む船の旅は楽しくて最高にスリリングだ。
(でも・・・・・・)
自分には何があるだろう、と時々
リンはちょっとやりきれない気持ちになる。
リンはただ一言だけを望み願っているのだが、自分にその資格があるとは到底思えないのだ。仮ではあるがひとつの道場を任され ていたのだから、決して弱くはないとわかっている・・・・・けれど剣士としてメリー号にはゾロが・・・・大剣豪を目指す人間がいる。ルフィは海賊王、ナミ は世界中の海図を描く、サンジはオールブルー、ウソップは偉大なる海の戦士。誰の目的もとてもまぶしく思えた。
(わたしは・・・・・ゾロと一緒に旅をすること・・・・だけど)
リンの夢。いつのまにか芽生えてしっかり根を下ろした希望だ。きっかけというのは何年も前だったから理由を忘れるくらい遠い ことにも思え、そのくせ昨日のことのようにも思える。今、
リンはメリー号にのっているのだから、夢は半分かなったといえるのかもしれない。けれど・・・・やはり、まだかなってはいな いのだと
リンは思う。願いは一言・・・・ただ一言なのだが。
「何だ、無視しやがって。俺たちと酒を飲めねェってか?極楽気分にしてやるってのによぉ」
我に返った
リンの目の前にごつくて汚れた手が迫っていた。反射的に
リンの身体は宙に跳んだ。いったんテーブルに足をついて、そこから隣のテーブルに飛び移る。上にのっているグラスや皿がひと つも揺れないのが不思議な光景だった。
リンはさらにもうひとつ奥のテーブルに跳び、店の入り口横にたてかけてある箒を手に取った。
「逃がすかよ!」
男の一人が無用心な様子で突っ込んできて、
リンの箒の一撃を受けた。それほど強く打ったようには見えなかったのだが、男の大きな身体は地面に倒れた。
「なんだ、この小娘!」
もう一人、次に飛びかかった男の身体も地面に落ちた。
「こいつ!」
残る3人のうち二人が銃を、一人が刀を抜いた。
「店の中へ!」
リンはウェイターに向かって叫ぶと、自分は跳んで店から離れた。一番店の入り口に近いテーブルの上の花瓶が粉々に砕けた。
刀を振りかざした男が
リンに迫ってくる。その刃は箒の柄に半分食い込み、がっしりと噛みあった。
(今なら・・・・・・)
男の刀を受け止めた
リンは一瞬考えた。この男が自分の前にいる限り、他の男たちは銃を撃てない。しかし・・・箒で長い間刀を受け止め続けるのは 無理だ。
リンの腕がぴんと張り詰めた時、1発の銃声が響いた。
(え・・・・・・・)
リンは自分の目の前に広がった赤い血を信じられなかった。銃弾は
リンの目の前の男の肩をこすって
リンの頬のすぐ横を流れすぎた。
「邪魔だぞ、ジグ!当たったら運が悪いと思いな!」
二人の男が同時に銃口を
リンの方に向けた。仲間の体越しに
リンを狙っている。
(どうして・・・・・・)
リンは思わず1歩引いた。ジグと呼ばれた男は一瞬憎々しげに仲間二人の方をにらんだが、それでもすぐに
リンに向かって刀を打ち込もうとした。
「てめぇら、何のつもりだ!」
その声を聞いた時の気持ちを
リンは言葉にできなかった。突然自分が強くなったような・・・・それと同時に弱くなったような気がして、一瞬だけ目を閉じ た。
ゾロの声。怒りを含んだその声とともに、たくましいこぶしが銃を握る男の一人を数メートル殴り飛ばした。
「仲間も何もおかまいなしかよ」
次にゾロは、もう一人の手を銃と一緒にねじりあげた。
「こいつを抜け!」
ゾロが、鞘の端を持った刀の柄を
リンの方に向けて差し出した。箒を放してゾロのほうに跳んだ
リンは迷わずそれを抜いた。「雪走」。でも、ゾロは朝、3本とも砥ぎに出したはずだったが・・・・・。
リンは男がやけくそ気味に打ち込んでくる刀を2、3回軽く流し、峰で男の手首を打った。男は刀を取り落とし、あわてて逃げ出 そうとしたところをゾロに鞘で殴り倒された。
「ゾロ・・・・・・」
リンは名前をつぶやくのが精一杯だった。
ゾロは
リンの隣まできて受け取った「雪走」を鞘に収めると腰に挿した。
「・・・ったく・・・だから1本借りとけって言ったろ。剣があればおまえは大丈夫なんだからよ」
(違う・・・・・大丈夫じゃなかった・・・・・)
自分は心のどこかでずっと怖がっていたのだ、と
リンは思った。死への恐怖とは違う、慣れない、名前の付けようがない感じの恐怖。ゾロの声を聞いたとたんにどこかに消えた恐 怖だ。
リンが何も言えないでいる様子を、ゾロはしばらく眺めていた。
「メシ、食うぞ」
ゾロは倒れていた椅子を起こしてそれに座った。その途端、店の扉が大きく開いてウェイターが駆けて来る。
「こちらへどうぞ、お客様。すぐに冷たいものをお持ちしましょう。もうぬるくなってしまいましたからね」
ウェイターが
リンを見る目には変化があった。椅子を勧める動作もきびきびとして、笑顔は以前よりももうちょっと深くてもう少し心からのも のに見えた。
リンのジュースとゾロのワインを持って戻ったウェイターの手にはあの箒があった。
「この箒、店に飾らせていただきますよ。お嬢様が荒くれ男どもをスカッとやっつけてくださった記念にね!さて、本日のおすすめメニューをご紹介しましょう か」
「・・・お嬢様かよ、おい」
リンは余計に何も言えなくなってしまい、ウェイターが勧めるままにランチメニューに決めた。ゾロは「まかせる」の一言で注文 を終えた。
二人はしばらく無言のままグラスを傾けた。
特に言葉はいらない時間。
ただ傍らにいて喉を落ちるワインの香りを感じていた。おかしいな、と
リンは思った。林檎ジュースを飲んでいたはずなのに。
そうするうちにウェイターが湯気が上がる盆を運んできて、色鮮やかな夏らしい料理をテーブルに並べた。・・・・明らかに注文したよりも品数が多い。
「今日はとことんサービスさせてもらいますよ」
ウェイターは二人のグラスにワインを注いでから店内に戻っていった。
「おまえ、なんだか人気あるな」
面白がっているらしいゾロが呟いた。
冷えたワインはほんのりと甘く、色鮮やかなサラダはドレッシングがさわやかで。
リンはようやく楽しい気分を思い出した。まだ地面で伸びている男たちの姿がちょっと滑稽に感じられる。
「ゾロ、雪走・・・・・」
リンが言いかけるとゾロの視線がそれを遮った。刀を持っていた理由を説明する気はないらしい。
「こいつは砥ぎに出すのは明日でいいさ」
ゾロはそう言ってまたグラスを空にする。
(もしかして・・・ゾロは・・・)
ゾロと一緒にいるときは酔いがまわるのが異常に早い
リンは、すでに身体に酔いが回りはじめていることを意識していた。
(酔ってる時だけ自分に都合よく考えてみてもいいかな・・・・・・)
ゾロは刀がなくても平気だ。
刀がないと弱いのは
リンだ。
だから。
リンは熱くなった頬に手をあてた。
「おまえ、俺がいないときには全然酔わないっていうのは絶対嘘だよな。・・・ったくそんな顔しやがって。あいつらがなんと言っても俺は信じねぇぞ。おい、 眠るなよ」
リンは酔っても静かなままだが顔は無邪気な微笑でいっぱいになる。そして次には安心しきった顔で眠ってしまう。ゾロがいる時 だけだというその光景をゾロはもう何度か見ていた。
「ゾロ、あのね・・・・」
リンの口調が少し緊張した。ずっとゾロに訊きたかったこと。今ならもしかしたら訊けるかも知れないと思った。
リンの突然の真剣さを訝しがりながら、ゾロは続く言葉を待った。
だが、
リンの言葉は中断された。
「うおぉぉぉぉ!あんたがた、どこの身内さんでいらっしゃるんです?こんな小さな島のお人とは思えねぇ!」
いつの間にか意識が戻ったらしいリーダー格の男が二人のテーブルの前に座り込んだのだ。地面に。言葉づかいが以前とは比べ物にならないくらい丁寧になっ ているのがおかしい。
リンは男の言動に目を丸くした。
。
「俺はおまえとつきあう気はねぇよ。仲間と一緒に消えな」
「そうおっしゃらずに!俺たちを仲間に入れてくだせぇ、旦那!」
「旦那って・・・・てめぇ、俺よりずっと年食ってるだろうが」
「いや、そうおっしゃらずに、旦那ぁ〜」
「男の癖にどっかのアホコックみたいに語尾をのばすな、語尾を!」
男とゾロが会話ともいえない騒がしさを振りまいているうちに他の男たちも次々と起き上がり、二人のテーブルの周りで騒ぎ出した。
「さぞかし名のある剣士さんでしょう!ぜひお名前を」
「相手の名を訊く時はまず自分が名乗んな」
「そのこぶしに惚れました!仲間がダメなら子分にしてくだせぇ!」
「旦那!」
「姉さん!」
体格がっしりな男たちに迫られて、ゾロは頭が痛くなってきた。
『姉さん』・・・
リンはますます言葉を失った。
「ちょっとゾロ!あんた何やってんのよ」
「これじゃあみんな怖がって店に入れねェじゃないか、クソマリモ!」
「あ・・・ナミとアホコックか」
ゾロの記憶では確率5分で朝とは違う服装になっているナミと大荷物を抱えたサンジがやって来た。騒ぎの様子を見にきたのだろう。
そしてナミの言葉は男たちになにやら影響を与えた様子・・・・・
「おい・・・・ゾロって言ったよな」
「ゾロってあれか?あれだよな」
「刀は3本じゃないけど、あれだよな」
男たちはそろってゾロを指差して叫んだ。
「海賊狩りのゾロだ〜〜〜〜〜〜!!」
逃げ足はとにかく速い連中だった。あっというまにメインストリートから姿が消えた。
「ったく、なんなんだ・・・・・」
「ゾロ、あんた何をやらかしたのよ?この町はまあ安心みたいだけど、悪目立ちするのは避けてよね」
「そうだそうだ!ほら、
リンちゃんはあきれて眠っちゃってるじゃないか・・・こんないい顔で〜」
「ああ・・・」
リンは自分の左腕を枕にして眠り込んでいた。
(こいつ、何を言いかけてたんだか・・・・・)
「こらこらこら〜〜!見とれてんじゃねェよ!」
「そんなんじゃねぇ!このアホまゆげ!」
男二人がにらみあっているうちに、ナミがウェイターと話をして戻ってきた。
「ほら〜、支払いは済ませてきたから船に帰りましょ!なんだかすっごく安くしてくれたのよね〜。ゾロ、ほんとに何やったのよ」
「俺じゃねぇ。こいつだ」
「
リン・・・?まあ話はあとで聞くとして、ゾロ、あんた、ちゃんと
リンを船まで連れてきてよね。
リンが酔うのはあんたのせいなんだから。あたしとサンジ君は先行ってるわよ」
「・・・」
ゾロは立ち上がると
リンの細い身体を肩に担ぎ上げた。
「おいおい!レディを担ぐなよ!ちゃんとお姫様だっこしてあげるのが男だろ!」
「だったらおまえがしろよ」
「え、いいのか?・・・・ってそういう問題じゃねェだろ〜!」
その時、
リンの口から小さな声がもれて、首がかすかに動いた。
ゾロとサンジは同時に口を閉じて身体の動きも止めた。それを見たナミがくすくす笑う。
「ほら、なんでもいいから早く行くわよ〜!サンジ君、荷物をお願いね♪」
「はぁ〜〜〜い、ナミすわぁ〜〜〜〜ん!」
(アホ・・・・・・)
ゾロは
リンの身体を軽く担ぎなおすと歩き始めた。
リンの口から漏れた言葉。それは多分ゾロの耳にしか聞き取れていないだろう。
(こいつ・・・・なんであんなこと・・・・)
リンの静かな寝息を聞きながらゾロは首を傾げていた。
ちゃんと仲間になりたい
さっき漏らしたそのために
リンは強くなりたいと願うのだろうか。
お前がもっと強くなったらな
そんな風に答えた言葉の響き。
記憶の中のそれをゾロは黙って心の中で小さく響かせていた。