小さな島の港に一隻の船が滑り込んだ。
ユーモラスな船首が人目を引くその船は、どうみても不似合いな海賊旗を翻している。大きな帆に描かれた海賊の印はなぜか微笑ましい麦藁帽子をかぶってい て、青い海に良く似合う。
「おいおいおい・・・・なんで突然こんな島に寄ってくことになったんだ?いや、まあ、そんなに焦ってグランドラインに突入しなくても、俺は別に構わないけ どよ!」
長い鼻が特徴の少年、その名をウソップ。彼の手はいそがしそうにカナヅチで釘を打ち付けている。
「ま、しかたないだろ、船長とあいつの約束なんだ。ここまでクソ忙しかった分、ちょっとばかりのんびりしようぜ」
咥えていた煙草を指に挟んで一筋の煙を吐き出す青年、サンジ。彼はそう言いながらもストライプ入りのシャツの袖をまくり、なぜかエプロンを腰に回した。
「この島で少し買出ししといたほうがいいかもね。グランドラインに入ったらどうなるか全然わからないから」
「は〜〜〜い、お供しま〜〜〜す」
オレンジ色の髪の娘、ナミ。なぜか船上に植わっている樹のかたわらに立って港の品定め中。そこにサンジが元気よく駆け寄る。
「俺も行くぞ〜!」
マストの天辺から少年が落ちてきた。普通ならばただではすまない状況だが、軽くポンッと着地して数回はずんでニコニコ笑っている。
「なんかさ〜、わくわくするんだよな〜」
海賊旗と同じ麦藁帽子をかぶったこの少年が船の船長、ルフィ。裸足にサンダルのその姿は夏休みの少年のようだ。
「お、ゾロ」
背の高い姿が4人の前を通り過ぎた。たくましい背中、腰の3本の刀。いつもよりも凄みを感じさせるその姿、ロロノア・ゾロ。「海賊狩りのゾロ」と呼ばれ る彼の名前はイースト・ブルーの海に知れ渡っている。
「行って来る」
ゾロが発した一言は静かではあるが、それだけではない響きがあった。
「おまえ、まだ怪我人だろうが」
サンジが声をかける。この間の魚人との戦いで、サンジははじめてゾロの隣で戦った。そして途中までは気がつかなかった・・・・・ゾロがあの鷹の目と呼ば れる男との戦いで負った傷に苦しんでいることに。そして気がついた後のゾロは、さらに強かった。常人離れしたその様は、サンジの想像を超えていた。
ゾロは足を止めた。
ウソップはカナヅチを握る手を止めて、そしてナミは組んだ腕に力を込めて、ゾロの後姿を見た。
「もう、治った」
ゾロが言った。
(治るかよ、馬鹿野郎)
サンジは煙草を揉み消した。
「負けんなよ、ゾロ!」
ルフィは満面の笑みで飛び上がり、ゾロの前に着地した。
「ああ」
短く答えた後、再びゾロは歩き出し、縄梯子を伝って船を下りていった。
小さな入り江を抱いたその島は、剣士たちの間では名が知れた場所だった。
住民のほとんどが剣の技を身につけている剣士の島。いくつかの道場があり、その中の二つの道場はとりわけ有名で、島の勢力を2分した頂点にあるという。 「漣(さざなみ)」と「海嘯(かいしょう)」。二つの流派のどちらにも海にちなんだ通り名がある。
やわらかな剣技の漣。
力の剣技の海嘯。
そのどちらに向かうのか・・・・ゾロの後ろ姿は次第に小さくなっていった。