跳 剣  2

イラスト/舞うカモメたち 港から町のメインストリートに入ると、人の姿を見るようになった。

(なるほどな)

 ゾロは通りですれ違うほとんどの人々の腰や背に刀、あるいは剣を見た。ゾロに向けてくる視線も鋭いものが多く、彼の3本の刀を指差す者もいた。

(だが、ちょっと極端じゃねぇか)

 刀が日常になっているなら、町はもう少し落ち着いていてもいいんじゃないかとゾロは思った。視線の一つ一つが緊張しすぎているように感じる。妙にギラつ いている気もする。

「おい、兄さん」

 一人の男がゾロの前に立った。

「あんた、どこへ行くんだい。海嘯のドラクさんの道場はそっから左に入ってすぐだ」

 男はやはり腰に刀を帯びていて、ゾロとの間合いの取り方にも経験が感じられた。しかし、目つきがどうも・・・・・

(気にいらねェな)

 男の目に見えるのは執着の色だった。ゾロが「海賊狩り」と呼ばれている人間であることは気がついていないようだ。とするとこの男、一体なぜゾロの前に立 ちふさがっているのだろう。

(まあ、碌な理由じゃないだろうな)

 ゾロは男の脇を通り抜けようとした。

「まて!・・・・うぅ・・・・・・」

 男はゾロの腕をつかもうとしたが、逆にゾロがその手を捕らえて腕を捻りあげる。

「何のつもりか知らねぇが、俺はもっと先に用がある。邪魔はするな」

 視線を合わせないまま言うゾロの横で、男の顔は痛みに充血してひどく歪んでいた。

「わかった・・・・わかったから・・・・・・」

 唸る男を放り出して、ゾロは進み始めた。その姿を追ういくつもの視線は、道端にうずくまる男のそれと同じくらい煩わしい。だが、ゾロの前を再びふさごう とする者は出てこない。

(中途半端な連中だぜ・・・・・)

 ゾロは通りをまっすぐに抜けて行った。



 道が少し細くなり傾斜がつき始めた頃、ゾロは自分の周りの空気の変化に気がついた。滴るような緑に覆われた山に続くこの道に、町で感じたような邪気はな い。静謐な空気の透明度も増したように思える。

(ほぅ・・・・・・・)

 ゾロは出所不明の懐かしさを感じていた。
 彼の目的地はこの先のはずだった。山道に少し入り込むと木々の間から木漏れ日が降り注ぐ。鳥の声、虫の声が耳に入ってくる。思わず深く深く空気を吸い込 みたくなるような場所だった。
 と、周りの音が止んだ。
 反射的に刀の柄に手をかけたゾロの前に、細身の男が立っていた。襟元を正した感じの黒い胴着。こうして目の前にたっているのに、気配はほとんど消えてい る。
 相手の空気に殺気がひとつもないことを確認すると、ゾロは刀から手を離した。
 男は一礼し、静かにゾロの腰の刀を見た。

「ロロノア・ゾロ殿。いらっしゃいましたか、とうとう」

「・・・・・どういう意味だ?俺はあんたを知らねぇが。ここに来たのも偶然だ」

 一瞬、男の瞳に、不思議な光が浮かんだ。だが、すぐに消えた。

「ご案内しましょう・・・・こちらです」

 男の背中は何も説明するつもりはないことを告げていた。

(行けばわかるってことか)

 ゾロは男の後ろについて行った。空気はあくまでも静かなまま、けれど次第に張り詰めていくような気がした。

2004.8.27

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