「なあ・・・・・
リン、朝メシ食ったのか?」
ウソップがラウンジの後ろを覗くように首を伸ばした。
「さっきサンドイッチを届けておいた」
サンジはナミのカップに紅茶を注いでいる。
「
リン、何してた?」
デッキチェアに座っていたナミは、新聞から顔を上げた。
「剣の手入れをしてたよ。
リンちゃん、一生懸命みたいだったから声はかけなかったけど」
「今は、素振りしてるぞ〜〜〜」
見張り台からルフィが下りてきた。
「「「素振り?」」」
3人の声が重なった。
ゾロは一人、寝息をたてていた。
「おい・・・・
リンは昼飯にこないのか?」
心配がすぐに口をついて出てくるのは、やはりウソップ。
「さっき、ちゃんと運んだ。朝のサンドイッチも食べてくれてたし、大丈夫なんじゃねェの」
言いながらサンジはそっとゾロの顔を見た。そのゾロは、黙って自分の前の皿を空にしている。
「サンジ〜、お代わりあるか?」
食事中のルフィ、ほかには全然目がいかない。サンジが空っぽの鍋を見せるとがっくりと肩を落とした。
「ねえ、ゾロ・・・・・もう止めた方がいいんじゃない?
リン、何時間も・・・・」
ナミが言うと、自然と他の3人の視線もゾロの上に集まった。
「ん?」
ゾロは視線を受け止めると、食事を終えて後ろにもたれかかった。
「ほっとけ」
「ほっとけですって?あんたね、そういう言い方・・・」
ナミの声はゾロの言葉に遮られた。
「あいつは、今、そうすることが自分に必要だからやってるだけだ。おまえらに同情されたくてやってるわけじゃない」
こういうときのゾロの言葉には不思議に騒ぐ心を静める響きがある。
ナミはまだすこし唇をとがらせながらも、ゾロを責めるのをやめた。
「そうだよ、ナミさん。
リンちゃんはとにかく一生懸命なんだし、大丈夫さ。そうやって心配そうな様子も素敵だけど」
サンジが微笑んだ。
「だ〜いじょ〜ぶだって!
リンは今、前よりも〜っと強くなってるんだぞ!」
ルフィが両腕をいっぱいに広げた。
「まったく、あんたたち3人は・・・」
ナミは肩をすくめた。
日がかなり傾いた頃。
リンは長剣を背中に収め、深く息を吐いた。
「なんだ、終わっちまったのか。1本、手合わせしようかと思ったのによ」
ゾロが壁に寄りかかっていた。
リンの唇に微笑が浮かんだ。
「大丈夫。次はちゃんと人を見ます」
リンが許せなかったのは、以前縁があった人間を中途半端に受け入れたこと。しっかり見て決断できなかった自分。
気がつくと、失うのが怖いと感じてしまうものが増えていて。
ナミが流した赤い血を見て燃え上がった怒りが恥ずかしかった。たとえナミたちの目にあのときの
リンの姿が強い剣士に見えていたとしても、自分だけはそれが弱さだということを知っていた。恐らく、ゾロも。
怒りに身をまかせてしまったら、見えるものも見えなくなる。自分の足でしっかりと立って、目で見て、肌で感じて。自分の死の瞬間まで。
「今のおまえの剣は、柔らかいだろうな」
そういうゾロの瞳の中にもっと何か見える気がして。
リンはまっすぐに歩いて行った。
「おまえはちっとも寄りかかってこねぇ。女だから、とか、守れとも言わねぇ」
ゾロの声に含まれている思い、これは何だろう。不満?困惑?その唇は笑っているのだろうか。
リンはあと1歩でゾロに触れてしまうところで立ち止まった。
「わたしは、わたし。・・・・ゾロがそう言ってくれた」
リンはゾロの顔を見上げた。
ゾロとともに旅をする夢。ゾロの夢を妨げることなく、彼の存在を縛ることなく、自分の力が及ぶ限りゾロの姿を追っていくだけだ。
守れる者を守り、立てなくなったらそこで別れる。
「そうだ。おまえは・・・・・」
ゾロは腕の中に
リンを抱き込んだ。
あの時、ゾロにはわかっていた。ナミを助けに飛び込んでいった
リンは、もしも別のタイミングで事が進んでいたら、なんのためらいもなく命を落としていただろう。
ほっそりとした
リンの中に同時に存在する強さと危なっかしさ。それが彼を強くひきつけて離さない。
「たまにはしっかりつかまえさせとけ」
腕の中の
リンの身体が静かに体重を預けてきたことがわかると、ゾロは
リンの光る髪に唇をあてた。