宿の老人は、ポタポタと雫を落としながら入ってきた二人の姿を見ると、だまってタオルを2枚、放り投げた。
「休憩、それとも泊まりかい」
「ああ・・・・泊まりにしておく」
ゾロは湿った札を数枚抜いた。
「夕食は別料金だ。いるなら、あとで注文を取りに行く」
「わかった」
ようやく老人が差し出した鍵を、ゾロの手はもどかしげにつかんだ。
「部屋は2階だ。・・・・・風邪ひかすなよ」
老人の目はタオルで髪を拭いている
リンに向けられていた。
「あんまり人の連れをジロジロ見るな」
ゾロは
リンの身体をかばうようにして階段を登っていった。
部屋に入ったと途端に壁際に置かれたベッドが目に入った。
思わず立ち止まった
リンを見下ろして、ゾロが笑う。
「焦るな、先ずは洗濯だ」
「洗濯・・・・・?」
ゾロはすばやく腰の3本の刀を外すと、
リンの頭からタオルを取り、背中の長剣も取り去った。
「ゾロ?」
気がつくと
リンはゾロに抱き運ばれ、シャワーの下に下ろされていた。
「湯が出ればいいがな」
ゾロがコックをひねると、最初は冷たい水が二人の頭の上から降り注いだ。
やがて水温は次第に上がっていき、室内に湯気が立ち上り始める。
「あたたかい・・・・」
リンは両手のひらで湯を受けた。
(あったまるまでもうしばらく時間がかかりそうだな)
ゾロは
リンの身体を抱き寄せながら、自分もシャワーの下に立った。
リンは、ゾロ胸に額をあててうつむいた。
「びしょびしょに濡れてしまう・・・・」
「どうせ、一回潮水でずぶ濡れになったんだ。洗濯代わりに丁度いい」
ゾロの声の最後のほうに漂う真剣な響きを感じて、
リンは顔を上げた。
リンの頬を伝うようにゾロは手をすべらせて、髪をしばっていた紐をといた。そのまま指で梳いて、温かな湯を通す。その手の静かな動きは すでにもう愛撫のはじまりで、
リンはゆっくりと目を閉じた。
湯で
リンの身体にはりついている衣類を、ゾロは一枚ずつはがして床に落とした。湯気と水滴の中に浮かび上がる白い肌。斜めに走る傷も見え る。
露になった胸をかばうように腕を交差する様子がゾロには好もしい。そのまま額に唇をあてて、最後の一枚をそっと脱がせた。
(怖がるな・・・・・)
素早く自分のシャツを脱ぎ捨てた後、ゾロは
リンの額から鼻筋に、そして両方の頬へと唇を動かしていった。
「ゾロ・・・・・」
ようやくすべての衣服を脱いだゾロは、自分の名を呼ぶ
リンの唇をふさいだ。
「だいぶ、あったまったな」
ゾロの手が確かめるように滑らかな背中や脇腹を撫ぜると、
リンは思わず唇を噛んだ。
(こうやって触れると、感じるんだな)
ゾロはシャワーを止めて、
リンを抱き上げた。
ゾロの胸の鼓動を肌で直に感じた
リンは、その場所に手を当てた。
「すごく、速い」
「お前もな」
ベッドに
リンを下ろすと、ゾロは改めて深く口づけた。
「息、しろよ」
リンが瞳を大きく開くのを返事の代わりと受け止めて、ゾロは再び唇を重ね、白い肌に手をのせた。
触れるたびに、場所を動かすたびに、
リンの身体に走る小さな衝撃。ゾロはそれを一つずつ確かめながら先へ進んでいった。ひとつひとつをこんな風に見つめながら誰かを抱くの は、ゾロにとって
リンがはじめての経験で。欲しがる気持ちと満たしてやりたい気持ちが同時に胸の中で暴れている。 唇を噛みしめ、手で口を覆っている
リンがもらす声はたとえようもなく甘く響き、もっと聴きたいと願ってしまう。
(おまえ、だけだ)
決して口にすることがない想いをゾロは心の中で繰り返していた。
リンは逃げ出したい衝動とゾロを求める気持ちの中で揺れていた。ゾロの手と唇が身体を過ぎていくたびに炎が燃え上がる。ゾロの優しさと 強さにこのままずっと身を任せてしまったら、自分の中の何かがもう元には戻れなくなりそうで。それでも。
(ゾロともっともっと一緒にいたい。もっと近く・・・・・)
いつも前を向いて進み続けるゾロには、決して言うわけにはいかない言葉。
リンは手を伸ばしてゾロの頬に触れ、そっと引き寄せた。
「どうした・・・・」
真っ直ぐなゾロの瞳。
リンは微笑むと静かに身を起こし、自分から唇を合わせた。
ゾロは膝を立ててしっかりと
リンの身体を抱きしめるとその唇に応えた。
「欲しいだけ求めたら、お前を壊しちまう気がする」
長く続いた接吻の後、ゾロが呟いた。
リンはその言葉に頬を染めたが、口元の微笑はそのままだった。
「いいさ、お前が歩けなくなったら、俺が担いで戻る」
ニヤリと笑ったゾロは、
リンの体を倒して再び唇を埋めた。