空はよく晴れていた。
光溢れる海を抱いた小さな港は、恋する者たちの逢瀬の場所でもあるらしい。
約束よりも早く来すぎて待つわたし。
ぼんやりと眺めていると、何組もの男女が仲睦まじく腕や身体を絡めあって埠頭のあちこちに置かれたベンチで言葉を交わしていた。
ずっと一緒に。
一生。
そんな言葉が聞こえてくると、なんだか夢のように響いて通り過ぎていく。
わたしがゾロに言ったことがない言葉。
ゾロもわたしに言わない言葉。
好きだと言うのが精一杯で、愛してるとは言ったことがない。
ゾロも同じ。
それでよく・・・とナミに笑われたことがある。あんたたち、恋人同士なんでしょ?と訊かれた。
返事は出来なかった。
恋人ってなんだろう。
身体を重ねると恋人?
愛を告げあったら恋人?
よくわからない。
「
リン」
ゾロがわたしを呼ぶ響きが好き。すぐに振り向いて飛びついてしまいたい衝動が胸の中で暴れる。でも、一息深く吸い込んで、我慢。いつもうまくいく。
今日はゾロにちゃんと言わなければならないことがあるから、余計に・・・・
不意にゾロの手が髪に触れ、もう一方の手で顎を捕らえられて身体ごとクルリと振り向かされた。瞳を見上げると、強い光と笑みと何か深いものが見える気が した。真っ直ぐな視線を受け止めただけで、用意していた言葉がどこかへ消えていった。
「早く来すぎるから待つことになるんだぞ・・・」
額に押し当てられた唇がそのまま瞼を通って頬を下りてくる。
ゾロ、どうしたの?なんだかいつもと違う。
戸惑いながらも込み上げてくる幸福感は同じ。ゾロの中から静かに溢れてくる力強さに圧倒されて酔いそうになる。
今、この時間に言葉は要らない。
どんな言葉も合わない。
互いの名前。
それだけでいい。
身を起こしたゾロの姿が、窓から差し込む夕灯りを受けてシルエットに見えた。
すぐ近くなのに、遠いような錯覚。
でも今は、手を伸ばすことができる。
「なんだよ」
やわらかな顔で振り向いたゾロに、今日言わなければ意味がない言葉を贈った。すると、ゾロが笑った。
「さっき、聞いた」
疑問符だらけになったはずのわたしの顔を見て、また笑う。
「お前、夢ん中で言ってた。寝言でな」
・・・よっぽど気になってたらしい。どうしよう。
思わず身体の上のシーツを引き寄せようとすると、ゾロがそれを押さえた。
「今度はちゃんと目が覚めてるみてぇだから、礼ができるな」
ゾロの重くてあたたかな身体が静かに覆いかぶさってきて、腕で強く抱きしめられた。
耳元に寄せられた唇が言葉をいくつか囁く。
返したい想いをわたしは言葉にできなくて、ただゾロに手を伸ばして力を込めた。
ゾロがこの日に生まれたことがとても嬉しかった。
今、互いを与え合えることが奇跡のように思えた。
お誕生日おめでとう、ゾロ。