「えっと・・・・子供の時サンジは毎日ナイフを持ってた・・・・・ゾロはボクトー・・・・ぼくとー???を持ってた・・・・・」
「ちょっと、ちょっと、チョッパー、それ何の話?」
いっぱいに広がる青空のもと、甲板には乾いた洗濯物を畳むナミの姿があった。傍らにちんまりと座り込んだチョッパーはノートを広げて口でブツブツ言いな がら熱心に何か書き込んでいる。
ナイフ?
木刀?
一見対照的に見えるこの船のコックと剣士。しかし勝負になった時の強さは計り知れない。・・・・同時に、柄の悪さも。
「何、何、あの2人、子供の時からそんな危ないことしてたの〜?」
呆れて大声を上げたナミの頭の上から大きな影がふわりと被さった。洗濯に使った石鹸の香りとともに。
「誰が危ねぇガキだったって?」
「そんな〜〜〜、ナミさん、クソマリモはともかく、大きな誤解ですぅ〜〜〜〜」
「んだと?」
乾きたてのシーツから脱出したナミの前には仏頂面で腕組みをしながらこっちを見下ろすゾロと、身体をくねらせながら目をうるうるさせているサンジが立っ ていた。
「だって、あんたたち、子供の頃からナイフだ木刀だっていえば・・・・」
反論しかけるナミの膝にチョッパーが駆け登った。
「違うんだ、ナミ!おれ・・・・おれ、2人に子供の頃の宝物の話を聞いただけなんだ!」
は?
宝物?
「そうですよ、ナミさん〜〜〜。俺、ガキの頃、早剥き名人と呼ばれてて〜〜〜」
「・・・・皮むきのことね?で・・・・ゾロは毎日今みたいに素振りでもしてたわけ?」
黙ったまま頷くゾロ。
三つ子の魂・・・・とかいうけれど。ナミはひとつため息をついた。
「俺の宝はこの帽子だぞ〜〜〜〜〜!」
どこからか飛んできたルフィが軽く着地した。
「俺はよ、そうだな〜、いろいろあったけどまあ、やっぱ、パチンコだな。いろいろ虫も飼ってたけどよ。かわいかったな〜、あいつら」
ラウンジから出てきたウソップが加わった。
ナミとサンジが同時に唇を噛みしめる。
最大スピードでノートにメモしていたチョッパーは手を止めると丸い瞳でナミを見上げた。
「ナミ、おまえの宝物はなんだった?」
「わたし・・・・・・?」
ナミは考えた。その表情がやわらかく変化する。
「わたしは・・・・・海図の本とか、そのくらいしかなかったけど。でも、今思うとさ、あの村全部が宝物だったのかな」
だから守りたかった。どんな事をしても。
だから忘れない。苦しかった記憶が全部消し飛んだあの日の事を。
ナミはルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ・・・・と視線を移動した。
「ほら、あんたたち、ちょうどいいから自分の洗濯物、畳みなさい!」
「え〜〜〜〜」
口を尖らせる船長を一睨みすると、全員渋々とナミの周りに腰を下ろした。
シーツを畳むために立ち上がったナミの目にチョッパーのノートの1ページが見えた。 思わず微笑が唇をかすめた。
「それがあんたの宝物?」
問いかけるとチョッパーはでへへ!と笑って慌ててノートを閉じた。
「何だよ、チョッパー、俺にも見せろよ〜」
「あ、俺も、俺も!」
「よせ、なんでもねぇ!」
ノートを抱えて逃げるチョッパーと追いかけるルフィとウソップ。
「ほらほら、洗濯物がぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ〜!」
怒鳴るナミの顔にはさらに大きな笑顔があった。
ノートの1ページには、見覚えのある魔女に似たところがある医者と黒いシルクハットの男、それからその2人を囲むように麦わら海賊団の面々の顔が描かれていた。