「おかしな男には見えなかったな。今もそうは思えねぇ」
首を傾げるエースの視線はずっとテーブルの上に落ちていた。
ゾロにとってこのエースという男は不敵であっけらかんとした笑みの印象が強かった。
サンジにしてみれば少々謎な
アキの仕事仲間というだけだ。
だから2人は黙ってエースに視線を向けていた。
「待ち合わせ場所まで俺が連れて行った。3時間後にまたそこで拾うことになっていた」
でも、その場所に
アキは現れなかった。
30分待っても来なかった。連絡もなかった。
これまで
アキは少しでも遅れそうなときには必ず連絡を入れていたから、何かあったと確信した。それでもさらに30分待った。
やはり、来なかった。
携帯電話の電源は切れていた。
「で、あんたはここに来た、と・・・・・。なぜだ?」
顔を上げたエースとサンジの視線がぶつかった。
「送っていく車の中で言ってたんだ・・・仕事が終わったらこの店であんたらに会うって。仕事以外のことを喋るなんて珍しいから覚えてた」
「じゃなくてよ!」
サンジはテーブルに身を乗り出した。
「あんた、
アキちゃんをどこかに連れてったその男のこと、知ってんだろ?だったら連れ戻しに・・・・・」
それまで黙って動かなかったゾロがサンジの前にスッと腕を伸ばした。
「身元なんて嘘に決まってる。余程の大仕事じゃなかったらいちいち裏までとらねぇ。・・・そういうことだろ?」
エースは頷いた。
「危険はいつだってある。それを承知で受けてる仕事だ。だから、時にはこういうこともある・・・」
歯切れが悪いエースの言葉にサンジは椅子を蹴るようにして立ち上がった。
「使い捨てってことかよ。承知の上だ、残念だった、仕方ないってそういうことかよ」
「・・・そうだ」
サンジはエースの身体に触れそうな位置まで歩いていき、見下ろした。
「じゃあ・・・・じゃあ、なんであんた、ここに来た。どうしようもないなら切捨てればよかっただろ。今までそうやってきたんだろ」
エースはサンジを見上げ、それから視線を下ろしてグラスから一口飲んだ。
「そうする組織は多い。・・・でも、俺は、これまでずっと個人的に最後まで見届けてきたよ。やめときゃよかったって思う結果になった時もあったけど、結局 わからないままで終わったりもしたけど、自分が関わった仕事は最後まで追いかけた」
「え・・・・」
再びサンジとエースの視線がぶつかった。サンジはそのままエースの隣りに腰を下ろした。
「今回はわけがわからない相手で、多分普通の人間で、1回きり、最初で最後のって奴だろう。だから余計始末が悪い。これまで何人かと一緒に仕事をしてきた が、
アキはちょっとばかり変り種で実力がある女だ。俺のほかに今はバックに誰かついてるわけでもない。俺はあいつを見捨てる気はねぇし、で も1人でちんたら動いてる場合でもない。だから、ここに来た。あんたらの手が必要だ」
淡々と語るエースの声に合わせるようにサンジの頬に赤みがさした。
「悪い。俺・・・焦っちまって」
「いや。来たのが間違ってなかったみたいだから、別にいいさ」
「ったりめェだ!とにかく、なんとかして
アキちゃんを見つけなきゃってことだよな。まずその待ち合わせ場所に行ってみるか?な、ゾロ」
サンジとエース、2人の目が自然と集まったその先で、ゾロは腕組みをしたまま動かなかった。
「おい・・・・、ゾロ?」
ゾロは一つ息を吐くと2人を見た。
「・・・あいつはなんであんなにタイミング良く俺を待ってたんだ?ここで」
「あいつ・・・?」
エースはただゾロの顔を眺め、サンジは少しずつ頭に沁みてきたゾロの言葉の意味に眉を上げた。
「もう何年も顔を合わせたことがねぇあいつが、どうして突然ここにいた。こんな偶然は滅多にあるものじゃねぇ」
「・・・
アキちゃんに聞いたってことか」
「そうだ。どういう形かはわからねぇが、この件にはあのカズヤが絡んでる」
今度はエースがゾロの言葉に反応して口を開いた。
「そいつは・・・多分当たりだ。今回の依頼人、住所も連絡先もデタラメだったが、名前は『カズヤ』って名乗ってた」
突然に絞られたターゲットの名前。
それでもまだ雲をつかむような状態に変わりはなかったが、3人は力が入った視線を合わせた。