冬っぽい5つの言葉

イラスト/雪の結晶◆◆タイトル こたつ◆◆

「やっぱりよ、お前の部屋が一番似合うな、こたつ。薄暗いと妙に落ち着く」
「どういう理屈だ、それは。大体、似合うっつうより、お前のとこにも アキのとこにも置けなかったってのが正しいだろうが」
アキ、頬を赤くする)
「いや、 アキちゃんのとこに置くのは最初から諦めて・・・・はは、ごめんね。俺はな、この時期が来ると毎日無茶苦茶忙しいんだよ。やれ忘年会 だ、冬の海を見ながらデートだ、クリスマスディナーの仕込だ・・・・ってよ。だから、部屋にはな〜んにも置きたくなくなるの!ソファとテーブルも粗大ゴミ に出しちまいたくなる。実際、何年か前には全部出しちまって、新年早々家具屋の初売りに走ったけどな」
「・・・・アホか」
「るせェ!このクソマリモ。・・・・あ、ごめんね、 アキちゃん。何、なんかすっごく・・・・えへへ、どうしたの?」
アキ、布団の隅で身体を丸めているフレークの顎を指でゆっくりと撫ぜている)
「・・・あったかいね、こたつ。こういうの、初めて」
(ゾロとサンジ、目を細める)
「出たくなくなっちゃうのが難点だよね。このまま、ずぅっとの〜んびりしていたくなる」
「うん」
「・・・腹がすいた」
(サンジ、呟いたゾロを睨む)
「空気を読めよ、クソ剣士!・・・・ああもう!ちょっと待ってろ!ったく」
(サンジ、するりとこたつから出ると早足で部屋を出て行く)
「食べたい人には必ず食べさせてくれるんだよね、サンジ君」
「コックだからな」
(ゾロ、そっと手を伸ばし、 アキの髪に触れる)




◆◆タイトル 忘年会◆◆

(サンジ、緊張した面持ちでグラスをのせた盆を運んでくる)
「改めてようこそ、マリエさん。店に来てくれてすっごく嬉しいよ。・・・こいつらに誘われたの?」
(サンジの視線を受けたゾロは無表情のまま。 アキはどこか心配そうな表情を浮かべている)
「どちらかというと、逆かしら。何だか突然 アキさんとお喋りがしたくなって電話を掛けたんだけど、話しているうちに懐かしくなって。三人一緒のところを見たくなって。それでお願 いしたのよ。サンジ君が忙しく働いているところも見たくてね」
「そっか。・・・ほんと、すっげェ嬉しい。すごく綺麗だ。・・・恋人、できたのかな?」
「・・・わかるの?」
「空気の色が・・・それと、お化粧の仕方もちょっと変わったから」
「・・・あなたらしいわ。お付き合いしてる人、かなり年上なの。わたしが何を言っても怒って睨んでも、ただ目を細くして笑ってるような人」
「懐が深くていい人そうだね。俺とは正反対かな」
「10年後、20年後のあなたがなっていそうな人よ」
「うわ、また喜ばせようとしてる?」
「本当よ」
(サンジとマリエ、ほんの数秒、無言で互いの顔を見つめる)
「あなたに恋人は・・・きっとまだいらないわね」
「その予言はキツイな〜。俺、いつでも募集中の心構えしてるんだけど」
「・・・無理しなくていいのよ。今の幸せの形を大切にするのがいいわ。三人揃って不器用、素敵よ」
(ゾロ、無言でグラスをあける)
アキ、テーブルの下でぐっと自分の手を握る)
(サンジ、しばらく黙っていた後、ゾロのグラスを盆にのせる)
「・・・なんかさ、ほんと、嬉しいな」
(呟いたサンジ、マリエに微笑を向ける)
「いい年だった今年に乾杯しよっか。待っててね、ちょっとこいつの酒と俺のグラス、持ってくる。ジジイから10分の休憩、もぎ取ってくるから」
「健闘を祈るわ」
(サンジ、軽やかにステップを踏みながら離れていく)




◆◆タイトル 鍋◆◆

「・・・何なんだよ、この共通点がなさそうで密かにありそうな組み合わせは!何でうちに集合してんだよ!」
「俺は アキに仕事納めのワイン、届けに来ただけだぜ?睨まれる覚えはねぇな」
(エース、にんまりと笑う)
「わたしは気が向いて赫足のところに行こうとしたら、あいつがこの部屋に場所を指定してきたのだが。・・・こやつに会うとは思ってなかったがな」
(ミホークとゾロ、互いを一瞥する)
「あのクソジジイは来てねェよ。来るとも言ってなかったぞ、昨日」
「さて。わたしにはわからんな」
「とかなんとかすましてるけど、あんた、最初、間違って アキちゃんの部屋に行っただろ?それで、なんで小一時間も居座ってんだ。エースが来なかったらもっと長居してただろ」
「様々な書籍を手に取らせて貰った。書物の趣味は合う部分があることがわかったからな。しかし、なぜぬしがそんなに気を高める?不思議な男だ」
「・・・俺はな、保護者代わりみてェなもんなんだよ!おい、ゾロ、いいのか?なんかこう・・・言いたいこと、あるんじゃねェ?」
(サンジの視線を受けたゾロ、のんびりと腕を組む)
「・・・ありそうなことだ。あんた、花の世話と剣を振ってるとき以外は、大抵本を読んでたからな」
「そこに酒と音楽が加われば、他に欲しいものはないかもしれんな・・・お前と違って」
(ミホークの金色の瞳、 アキの上に移動し僅かに和む)
(サンジ、大きくため息をつく)
「わかった。いいから、エースもあんたもワインを寄こせ。何かは食わせてやる。こんだけ急に人数が動いたら、できるのは鍋くらいなもんだけどな。ったく、 あのクソジジイ、何してやがる。食材くらい運んで来いっつぅの」
(サンジ、灰皿の上で煙草をひねる)
「鍋ならフォンデュ、食いてぇな。チーズのやつ」
「さっぱりと水炊きも鍋らしくはないか?」
「・・・すき焼き」
(サンジ、髪の毛を掻き毟る)
「か〜っ!バラバラじゃねェか!もう、ここはレディ優先だぞ、いいな!さあ、 アキちゃんは遠慮しないで・・・・何がいい?」
アキ、困って曖昧に微笑する)
「・・・どれも何年も食べてないから、すごく迷う」
(一瞬、男達の視線が アキに集中する)
(サンジ、ぐっと拳を握る)
「よし!俺に任せて。 アキちゃんに全部食べてもらうから!おい、ゾロ、車回せ。うちにあるだけじゃ全然食材、足りねェ」
(立ち上がった二人を見て、 アキ、慌てて自分も立ち上がる)
「あのね、あの・・・どれかひとつで十分だから。どれでもすごく楽しみだから」
(エース、笑う)
「いいんじゃねぇの?もう、コックさん、すっかりやる気みたいだぜ」
「おうよ!こだわりの鍋、作ってやるぜ・・・・って、なんだ?ドカドカと」
(外の通路を歩いてくる重い足音が響く。奇妙に左右のバランスが違う音色。やがて、扉をノックする大きな音が続く)
「ベルがあんだろ・・・・ったく、いつまでも進歩のねェジジイだな」
(歩いていったサンジ、ドアを開ける)
(玄関の前に積み上げられた保冷箱の山。サンジ、ニヤリと口角を上げる)
「鍋になったぜ、今夜のメニュー。フォンデュに水炊き、それにすき焼き。饂飩と餅、入ってんのか?」
「わしを舐めるなよ、チビナス。饂飩はバディの手打ち、餅はカルネと他の連中につかせたやつだ」
(一瞬の笑みを交わす二人。すぐに視線を外して同時に服の袖を捲くる)
「んにゃぁ?」
(トコトコと歩いていったフレーク、一声鳴いて二人を見上げる)
「「おお、すぐにできるからな〜」」
(ぴったり重なる声)
アキとエース、思わず表情を隠すために俯く)
(ゾロとミホーク、さり気なく視線をそらす)
「・・・似てるな、コック二人」
「うん・・・・どうしよう、まだ顔、上げられない」
「まだまだだの、ぬしらは」
「そういうあんたも、髭、震えてんじゃねぇか」
(視線を合わせない決意を固める4人)
(気づかずに目を細めてフレークを見下ろしている二人のコック)




◆◆タイトル クリスマス◆◆

「アコーディオン、上手くなったって言ってたね」
「だよね。それに、相変わらず時々水族館に魚、見に行ってるらしいよな」
「何が欲しいかな・・・シュン」
「俺さ、日持ちするケーキは焼こうと思ってるの。母さんと一緒に食べて欲しくてさ。でもなぁ、いざプレゼントとなるとなかなか浮かばないね〜」
「うん。難しい」
「・・・つきあってる相手がいるんだろ?」
「・・・え?」
「はぁ?」
アキとサンジ、ゾロを見つめる。ゾロ、居心地が悪そうに首をすくめる)
「何、お前、それ、メール、来たのか?」
「ああ。しばらく前に」
「うわ、なんだよそれ。なんでお前だけ?・・・・考えたくねェけど・・・恋愛の先輩とかいうヤツ?」
「・・・俺に訊くな。シュンに訊け」
「いやまあ・・・。でもよ、でも、あいつ、まだ小学生だろ?だよな?」
「・・・6年生、だと思う」
「だよね〜。いやぁ、ちょっと早すぎねェ?くぉ〜!生意気!」
「・・・でも」
アキ、ちょっと考えてから微笑する)
「ん?どうしたの?」
「うん・・・。あのね、もしかしたらシュンも・・・ほら、今頃、大好きなその子にあげるプレゼントを悩んだりしてるかな、と思って」
(サンジの顔に笑みが広がる)
「ああ!初めてのクリスマスなんだもんな、シュンとその子」
「一生懸命悩んでたら、大変そうだけどきっと楽しいね」
「だよね〜。なんか緊張しちまう」
「・・・なんでお前が」
「いいだろ。俺にもなんでかわからねェけど」
(3人、こたつの中でそれぞれに座りなおす)
アキ、小さく笑う)
「でも、わたしたちからのプレゼントはやっぱり決まらないね」
「はぁ。難しい」
(ゾロ、棚から何か薄いものを取ってテーブルの上に置く)
「・・・なんだ?」
「・・・チケット・・・・?」
「・・・旅行券。期限は1年。むこうとこっちを2往復はできる」
(視線を合わせた アキとサンジ、一瞬で笑顔になる)
「お前・・・・マリモのくせに」
「これだったら、シュン、来たい時に自由に来られるね」
(ゾロ、無言で頭を掻く)
「よし!今度あいつが来た時にはいろいろと突っ込んで訊いてやる」
「冬の間に会えるかな」
(二人の笑顔を見ながら、ゾロ、ヴァイオリンを手に取る)
(流れ出した音の響きに、二人、目を閉じる)




◆◆タイトル 雪◆◆

「寒いか?」
(ゾロの声に、 アキ、小さく首を横に振る)
(バラティエの前。立っている二人の前にある海に空から雪が落ちている)
「雪は落ちてとけたらすぐに海になるんだね」
「・・・ちょっとばかり、答えに困るな」
(ゾロ、笑いながらそっと アキを後ろから腕に抱く)
「時々お前は大人なのかガキなのかわからなくなるな」
「・・・困る?」
「いや・・・面白い」
(二人、そのまましばらく海と雪を眺める)
(戸口から出てきたサンジ、ハッとして足を止める。顔に微笑が浮かぶ)
(サンジも黙って海を眺める)
(次第に雪と風、強くなる)
(サンジ、煙草を咥えて火をつける)
「よぉ。お待たせ。あんまり積もって車が動けなくなる前に、帰ろうぜ。・・・・残念だけどよ」
(ゾロ、 アキの身体から手を離して振り向く)
(少し遅れて顔を真っ赤にした アキもサンジを見上げる)
(サンジ、階段を駆け下りて二人と並ぶ)
(三人の顔に浮かぶよく似た表情。満足感)
(そのまま歩き出した三人の後ろに足跡がくっきりと残る)

2006.12.19

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